春 昼



ポトリ

ポトリ



ひらりひらりと舞う花弁の中を歩いていると、

舞い落ちるとは表現しがたい勢いで舞い落ちてくる鮮やかな桃色が目に飛び込んできた。

いつ見ても不思議な光景だと思う。

その中に、穏やかな表情で立つ起きたの姿を見つける。



「沖田先生!」



消えてしまいそうにはかなく感じて、名前を呼んだ。

「おや、神谷さん」

「おや、じゃないですよ。どうされたんですか?」



ふいに空気が変わった。



(あれ?いつもの沖田先生だ)



「いえね、原田さん達があんまりにもしつこかったので逃げてきたんですよ」

セイが屯所を出るとき、原田達が嬉しそうに皆を誘って町へ繰り出していたのを思い出す。

「ここなら誰にも見つかりそうもないですしね」

そう続けて桜を見上げる沖田。

「すみません。私、遠慮しましょうか」

あわてて言うセイに、

「いいんですよー。ほら、綺麗ですよ」

「・・・はい」

一緒に桃色の木々を見上げる。

年代を感じさせる、貫禄のあるその桜の機は、見上げれば首が痛いほどに背が高い。

隣の沖田の表情を伺い見ようとするけれど、同じように高い樹を見上げているので読み取れない。



(何か、あったのかな・・・)

何だか様子がいつもと違うように感じる。



「ねぇ、神谷さん」

沖田がそっと耳打ちする。

掛かる息がくすぐったい。

「はい」

突然の至近距離に内心あわてるけれど気付かれないように平静を装う。



「桜餅、食べに行きませんか?」



おなかの辺りを摩りながら少しだけだらしない顔で沖田が笑う。

桜と言えば桜餅。子供のようなこの発想。

こういう人だった。

「はいはい。そうですねー」

体の緊張が解けていく。

「あの通りにあるお店が評判良いそうですよ」

こちらもコッソリと耳打ちした。

子供同士が秘密を打ち明けあうように。

誰に聞かれても困る会話ではないのに、コソコソと額を合わせて話し合う。



クスリ



顔を見合わせて笑いあい、

「行きましょうか」

「はい」

肩を並べて二人、赤い星の中を歩き出す。

「沖田先生」

「はい?」

「・・・なんでもないんです」

おかしな人ですねぇ。と沖田が笑う。



セイは並んで歩く、嬉しそうに弾んだ自分より高い位置にある肩を見上げる。

どんな気持ちで歩いているのかがよくわかる。

セイはそっと笑った。



ねぇ、先生?

私、とても幸せなんです。

ご存知でした?



心の中で沖田に問い掛ける。

とても、とても温かな気持ちで一歩、また一歩と歩き出す。



拍手ありがとうございました^^
春と言えば桜をテーマにお話を書かせていただきました。
楽しんでいただけたら幸いです。

090303(改稿090614) 空子

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