例えば 局長のような存在感を
例えば 副長のような統率力を
例えば 沖田のような真っ直ぐな心を

自分が持っていたのなら何か変わったんだろうか…。

茜 空
 

この間、神谷と近所の子供達と木登りをした。

暦の上では季節は移ろいだとは言え木々の葉はまだ青々と茂り、夏の気配が抜けない京の町。
藤堂は思い立って木に近付くと、洞に足を掛けて太い幹を登っていく。
手頃な場所を見つけて腰を落ち着けると少し痛く感じるようになった秋の風を頬に感じた。

「ふ〜」
眼を閉じて、吸って 吐いて 深呼吸を数回。
瞼を上げて、視界に飛び込んだのは沈みかける太陽の茜色。
夕闇に追い立てられるように陽の力を失っていく。

「……」

近頃は、いつも何かに追い立てられるように日々が過ぎ、何をしていても落ち着かないでいた。
ぶらりと足を揺らす。頼りないこの感覚は、今の自分の状態を現しているようだ。

(もう、どのくらいたったっけ…)

江戸を出て京に腰を据えて、山南が亡くなって同門の伊藤達が加わって…。
始めはただの興味本位だったかもしれない。
世話になっていた試衛館の面々が熱い、眩しい想いを持って出立したから。
それほどまでに執着はなかったけれど、それなりに志を持って立ったつもりだった。

でも、今は不安定さに心が揺らぐ。

(不思議だよねぇ)
ふぅっと溜め息。


「…何をしている?」


足下から怪訝そうな声がする。
視線を下に向けると、斉藤がこちらを見上げていた。
思いもよらない人物の登場に少しだけ驚いて、
「はは。見つかっちゃった?」
「何を子供のようなことをしているんだ」
「気持ち良いよ。登って来ない?」
この大きな木には大人もう一人座れるくらいにまだ余裕がある。
何せ、以前は神谷と子供3人が登ってもびくともしなかったしっかりした大木だ。
「いや、いい」
間髪いれずに返された。
「高い所が苦手とか?」
「うるさい。不安定な場所が苦手なだけだ」
「そっか」

彼は地にしっかりと足を着けて、着実に、誠実に進んで行くことだろう。
そういう男だと思う。

「……」
ぶらりと空をかく。

「…そうだよね」
彼は迷うことなく信じた道を進んで行くのだろう。
心の闇に負けない強さを持って。

「斉藤」

声を掛けると幹に凭れて立つ斉藤が視線だけこちらへ向けた。

「ごめ、降りられなくなっちゃった」

「は?」

「助けてよ」

「知らん。自業自得だ」

そうだよね。
行きは良い良いってね。
(さて、どうしよう)
何だか自分が滑稽に思えて笑ってしまう。
考えていると、溜め息と共にぬっと手が差し出された。

「……?」

「なんていう顔をしているんだ。…落ちるぞ」

自分の手を凝視して惚ける藤堂に斉藤は眉間に皺を寄せてしかめ面で声を掛けてくる。

(苦手って言わなかったっけ?)

「ぷっ」
思わず吹き出した藤堂に、「なんだ」と更に斉藤の眉間の皺が深くなる。
 
「斉藤ってさ、良い奴だよね」
「な、何を言ってるっ。帰るぞ」
「うん」
気遣いながら降りる斉藤の後に続いて木を降りる。

「ありがとう」
「まったく何をやってるんだか」
「ごめんってば」
ふんっと背を向けて歩き出す斉藤。
なかなか頼もしい仲間の背中。

では、自分は…?

(もしも俺が…)

藤堂は、もう一度先程までいた場所を見上げる。
夕と夜の狭間で輪郭を失いつつあるその場所に唇を噛んだ。
 
……だったなら?

答えは出ない。
振り切るように踵を返すと、斉藤の隣に駆け寄って並んで歩いて行くのだった。


藤堂さんと斎藤さん。
意外と良いコンビだと思うのは私だけでしょうか。
めまぐるしい日常の中、ふいに自分の存在意味がわからなくなったりとか
様々な葛藤の生じる中で日々過ごしているのではないのかなぁと思い書いた作品です。

2007.09.05 空子

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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