暁 降


ふいに夢に見る事がある。
澄み渡る空の青と、まっすぐに前だけを見つめる強い意志を持った瞳。

「いちっ!」

ブンッ

「にっ!」

ブンッ

突然目が覚めて、そのままの勢いで総司は木刀を掴み表へ出た。
まだ日も昇りきらないこの時刻。
日中の暑さは無いが、夏目前のまだ湿った空気が体に纏わりつく。

「なんだ、ソウジロウ。随分血色の良い面してやがるな」
これみよがしに名を強調して、ニヤニヤと笑いながら土方が背後から声を掛けてきた。

「いつから稽古してたんだ」
近藤が心配そうに土方の傍らから手ぬぐいを差し出してくれる。

「総司ですよ歳三さん。すみません若先生、起こしてしまいましたか?」
土方を横目に近藤に体を向けた。
「いや、なんとなく目が覚めてしまってな」
久しぶりに土方と会えたので、手合わせしようと思って。と二人が顔を見合わせて木刀を持ち上げた。
二人揃えば土方の行商先での事、世情の事、果ては総司には聞かせられない与太話までと話題の尽きない近藤と土方。
昨晩も一人減り、二人減りと静かになった部屋の中、眠りにつく気配の無い二人がいたことを総司は知っていた。

「お前ぇ、また力つけたのか?」
土方が、ちっと舌打ちをして方眉を上げる。
「え?」
突然の土方の言葉に一瞬呆けて後に頬が緩む。
この頃は試衛館の食客も増えて随分賑やかになってきた。
様々な場所で腕を磨いてきた彼らとの手合わせは、
試衛館の中で育ってきた総司にはとても新鮮であり学ぶことも多かった。
経験が自己を成長させる。
めったに賛辞を述べない土方の言葉が素直に嬉しく思う。
「私ももう大人ですからっ」
ドンッと胸をたたく仕草をする。
「おぉ?泣き虫の言葉とは思えねぇな」
土方が笑って総司の頭をくしゃりと撫でた。
「いつの事を言ってるんですかっ」
クククッと笑うと、剃っちまえば良かったのに。と土方に頭の天辺をピシリとはじかれた。

『公方様のお役に立つために、今の内にたくさん泣いておくの』

そう言って、行きかう人々の中から兄を見つけようと、大きな目を更に開いて
ポロポロと涙を流しながらも強く前を見据える意思の強い眼差しを持つ少女を思い出した。

「泣き虫とは左様ならです」

「そうか」
近藤が笑う。

近藤を助け、剣と共に生きていく。
その為なら、どんな試練にも負けないくらいに強くなれる。

空はいつの間にか明るくなり、この時刻にあっても日差しの強さが肌に痛い。

(あの時も、こんな空だったな・・・)

総司は、木刀のぶつかる音を聞きながら、清清しい気持ちで澄み渡る青を見上げるのだった。


入り口との自己コラボ第二弾です。
総司さんは、お兄様方に優しく鍛えられてスクスク育ったことでしょう。
その中に、幼い日の記憶がたくさんあったら嬉しいなと思い描いた小話です。
「暁降= 夜明け前」です。

2008.06.14 空子

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