静かに玄関先で手をついて頭を下げて客を見送る。

この時が悠にとっては一番心が平静になる時だった。

芸も持たない女の身で一人生きていくために今は他に術がないと頭では理解している。

けれど、嫌なものは嫌なのだ。

それがどうだろう。

 

「じゃあ、またね」

 

藤堂に言われて客にするように玄関に膝をついたとき、チクリと胸に痛みを覚えていた。

 

(・・・なんで?)

 

顔を上げて見送る事ができなかった。

藤堂が出ていった玄関先をしばらく眺めていた。

いつの間にこんなに存在が大きくなっていたのか。

自分で自分が少し怖い。

 

「ごめんっ、お悠ちゃん。かさを・・・」

 

突然勢いよく戸が開かれる。

 

「「あ・・・」」

 

視線を見合わせてしばらくだんまり。

 

「雨?」

 

最初に口を開いたのは悠だった。

「あ、うん。傘を貸してもらえないかなあって・・・」

「へぇ」

頷くとかたわらに立て掛けてある傘を差し出した。

 

「・・・藤堂はん?」

 

受け取る気配のない藤堂を不思議に思い顔を伺った。

 

「・・あのさ」

 

「・・・はぃ」

 

「・・・まだ、時間大丈夫かな」

 

「?」

 

藤堂の意図が掴めず悠は頭をかしげた。

好き好んで雨の中、こんな長屋に女を求めてやってくる男はないだろう。

 

「もうしばらく、一緒にいても良い?」

顔見たら離れがたくなっちゃった。

 

照れたように笑う藤堂を真っ直ぐに見ることができず一つ頷くとそのまま俯いた。

 

離れがたく感じたのは自分。

 

帰ってほしくないと願ったのは自分。

 

もしかしたら、この雨を降らせたのも自分かもしれない。

 

『遺らずの雨』



ふいに頭にこの言葉が浮かんだ。



「堪忍え」


自分の身勝手で。

 

(・・・でも嬉しいんよ)

応えてくれるのが。



「え?」



「・・・雨、はよ止むとええね」


「ん〜。そうでもないかな」


えへへと笑う藤堂に、安堵の吐息を一つつき微笑むと、そっと彼を迎えれたのだった。

 

 

 

もっと一緒にいたいという乙女心。
偶然なのかもしれないけれど、本当に天気を変えられるくらいに強い想いってあるんじゃないかなとか
思います。

2006.04.19 空子

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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