足並み揃えて

 

まぶし…。



セイは差し込む光の眩しさで目を覚ました。



(寝過ごしちゃった??)



慌てて体を起こすと周りは高いびきで寝入っている様子。

外からは朝の稽古の準備を始める10番隊隊長の元気な声が聞こえることから

改めて寝過ごしたわけではないことがわかった。



「さむ…」



ぶるりと体を震わせる。

今日は夜中の巡察だったこともあり午前中は予定はなし。

それでも元気な掛け声を聞いてしまうと「自分も!」とうずうずしてしまう。

一時の休養も、次に備えての大切な隊務だと知らされたばかりなのに。

それでも性分なのか、体を動かしたくなり周りを起こさないように気を遣いこっそりと床を離れる。

隣りを見るともう沖田の布団は畳まれていて姿は見えなかった。



(どこへ行ったのかな)



首をかしげると障子に手をかけた。


「わ…」


突然の光の強さに目を瞑る。

瞼の裏がチカチカして目を開く事ができなくてごしごしと目許をこする。



「神谷さん早いですね〜」



呑気な声が頭上から降りて来る。



「沖田先生?」



目を開くと明るく白い世界に逆光の影。

肩が揺れる様子から相手が笑っているのがわかる。

「まだ寝てても良いのに〜」

「目が覚めてしまって…。わ、すごいですねっ」

目が慣れて、庭を見下ろすと一面真っ白。 木々の枝も真っ白。

光を受けた雪の反射で眩しかったのを理解し興奮気味に沖田の袖を掴む。

「神谷さん、今日は空いてます?」

「…特に何もありませんが」

思い付く事と言えば屯所前の雪かきくらいだろうか。

「本当ですか?」

ずいずいっと沖田が顔を寄せて来る。



(あぁ、この顔は…)



目尻を下げて幸せそうに笑うこの顔に何度騙されてきたか…。

「夢のお告げがありましてね。今日は葛きりを楽しめと」

セイは大袈裟に溜め息を付く。

そんなセイの様子を気にもとめずに沖田はあれやこれやと口にしながら楽しそうだ。

「沖田先生のおごりでしたら喜んで」

セイがにんまりと笑うと、沖田は「仕方がないですねぇ。特別ですよ」とまた笑う。

その笑顔に、不覚にもセイは見惚れてしまうのだ。

「……っくしゅん」

「暖かくして来てくださいね。では、表で待ってます」

言いながら綿入れを掛けてくれた。

じんわりと温もりが伝わって来る。

「…はい」

廊下を行く背中を見送ると、セイは部屋に引き返した。






セイの周りはいつも慌ただしい。

廊下では稽古でケガをした隊士に呼び止められ、玄関では原田に追いかけられ、やっとの思いで外へ出た。



「沖田先生」



門に佇む姿に声を掛ける。

どことなく楽しそうな沖田がセイを見てニコリと笑った。



「どちらが多く食べられるか競争しましょうか」

 

「えー、いやですよ。そんなの」



他愛の無い会話をしながら道を進む。




ざっざっざっ




歩く沖田の後ろを追うセイの足音。

「先生、そんなに急がなくても葛きりは逃げませんよ?」

「なんだか楽しいんですよねー」

子供のような表情で雪を踏みしめる沖田にセイはおかしくなって小さく笑った。

まだ時間が早いからか、前方には人の足跡はなく自分たちがどんどんと開拓していく白い道。

後ろを見やると、自分と沖田の足跡。



先にここまできたのは沖田。



追いかけて沖田の足跡と並んだ今のこの位置。



(…一緒に歩いていくって、こういうことなのかもしれないな)




今の世の中何が起こるか自分には想像もできない。

もしかしたら自分は沖田の隣には並んでいないかもしれない。




けれど、向かう先は同じだから…。




沖田を見上げると、優しい笑顔。

それだけで安心する。

「さ、行きましょうか」

手を差し出されてしばし戸惑う。

なかなか取ることができないセイの手を沖田が掴み取った。

「…売り切れちゃいますよ?」

せっかくの時間。

感傷的になんてなってちゃつまらない。

「そうですよね」

「わわ、神谷さん?」

セイは大きな、暖かな手を握り返すと沖田の手を引き走り出したのだった。

 


真っ白な雪道。
人の足跡をなぞって歩くのも楽しいですが、
こう自らが足跡をつけるのって「切り開いていく」という感じでドキドキしませんか?
「今年もがんばろう!」そういうことを思いながら、お年賀のご挨拶として書かせていただいたお話です。

2007.01.02 空子
(2007.04.08改稿)


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