温かな場所

 

「ですからね、おじょうさま」

「はいはいはい」

やれ戸締まりはどうだ、来客があったらどうだ。

心配気な様子の千代の言葉。

昨晩からこの調子なので、正直言ってしまうとちょっとげんなり。


千代の実母が体調を崩したとの連絡を受け、まさは彼女に数日の暇を与えたのだった。

まさを一人にすることがよほど心配なのか、戸口であれやこれやと言い述べている。

「・・・
早くいきよし」

まだ何か言いた気な千代を見送って一息入れた。

容体が悪くなければ数日で千代は戻ってくる。

その間はお小言もなくのんびり過ごせる予定なのだ。

夜には左之助もいる。

何も心配することはない・・・はずだった。



「ひっ」

日が傾いてから強くなり始めた風に戸がカタカタと揺れる。

まさは先程からずっと息を呑んでは吐いての繰り返しだった。

本でも読んで気を紛らわそうと試みるけれど、頼りの明かりも時折ゆらりと揺れて不安を抱かせる。

いつも側にいる千代は今日はいない。

他の者も下がってしまって部屋にはまさ一人。

早く眠ってしまえばとも思うのだが、左之助がこの天候の中外にいると思うと心配でいてもたってもいられない。



(早よ帰ってきて)



カタカタ



廊下のほうで人為的な音がする。



「・・・だれ?」



階下で何かあったのだろうか。

一歩、ヒヤリと頬を撫でる冷気漂う廊下に出た。



「・・・・」



見渡すけれど人の気配はない。

『最近物盗りが・・』昼間の千代の言葉が脳裏に浮かんだ。

息を呑み、もう一度目を凝らして闇を見つめるけれど人が動く気配はない。



(気のせい・・やんな?)


家人が通っただけかもしれない。

ほうっと胸をなで下ろし部屋へと戻ろうとした時だった。



「わっ!」


声と共に背後から両肩を押さえられる。

「!!」

突然の出来事に驚いて助けを求めて声を出すこともできない。



「驚いた?」



よく知る声に後ろを仰ぎ見ると左之助が「ひっかかった」とばかりに笑っている。

「おっと〜」

左之助の顔を見た途端に力が抜けてヘナヘナと座り込む。

左之助も驚いたのか支えることができなかった。

「腰抜けてもて・・・」

手を差し延べるがどうにもならない。

「わるかった」

言うが早いかひょいとまさを抱き上げる。

「???」

ふいに浮かび上がった体に状況が把握できずにしばらく惚ける。

「・・な、何笑てんの」

「かわいいな〜と思って」

「・・そ、そんなわけあらしまへんっ」

力が入らないなりに小さく抵抗するけれど、下ろしてくれそうもない。

「かわいいかわいい」

見上げると締まりのない左之助の顔。

「・・・なんやの」

鼻歌唄いながら部屋に入る左之助 に、フンッと顔を背ける。

 

今日のように驚かせるようなことをする子供っぽいところも

だらしない顔も、

大好きだったりするので、困ったもの。

なんだか可笑しくて小さく微笑むと

まさはおとなしく温かな左之助の胸元に頬を寄せたのだった。

 

 


おまさちゃんと左之助さん。
大好きな二人です。
おまさちゃんが可愛くてしかたない!

ちょっと寒い時期なので、ほんわかあったかくなってもらいました。

2006.02.06 空子



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