遠雷

じめじめとした梅雨の時期に入り

隊士の面々は、鬱々と日々を過ごしていた。

「ぱっつぁ〜ん、やってらんねーよぉ」

梅雨に入った初めの内は、

雨が降る庭に出ては行水と称しておおはしゃぎしていた原田も、

さすがに連日の雨に新鮮さを欠いたのか、永倉にまとわりついていた。

「うるせぇぞサノッ」

うっとおしいとばかりに腰辺りにまとわりつく原田を蹴り倒す永倉。

「みなさん、だいぶ鬱憤がたまってらっしゃいますねぇ」

周りの鬱々とした雰囲気の中、

廊下を歩くセイも同様で、

何かと構いたがる沖田を軽くあしらいながら廊下を歩いていた。

「神谷さん、つめた〜い」

「沖田先生、ウザいですっ!!」

つい鬱憤を想い人であるはずの沖田に向かって晴らしてしまう。

ピカッ!

厚い雨雲に覆われて、昼間なのに暗い空に閃光が走った。

ゴロゴロゴロッ!

間髪入れずに轟音が鳴り響く。

「・・っ!」

セイは思わずその場に座り込んでしまった。

「へ〜、神谷さん、雷こわいんですかぁ?」

ニヤニヤしながら同じようにしゃがみ込む沖田にセイはぐっと喉を詰まらせた。

「ち、ちがいますよっ、驚いただけです!」

勢い良く立ち上がると、セイはダッシュでその場を離れた。

「神谷さ〜ん、おへそ取られないように気をつけてくださいね〜っ」

後方からのからかいを含んだ声に、くっそ〜とセイは猛ダッシュ。

ドンッ

「きゃっ!」

廊下の角をおもいきり曲がったその時、

前方から歩いてきた人物に思い切り体当りをしてしまった。

「元気だなあ、神谷君」

勢いで尻餅をつきそうになったセイの腕をつかみ、

軽がると引き戻しながら、笑顔の近藤が言った。

「も、もうしわけございません、局長!」

大慌てで頭を下げる。

「遊んでんじゃねーぞ、わっぱ」

近藤の後ろから鬼副長土方がむっすりと顔を出した。

「・・もうしわけありません」

土方にも頭を下げた。

「まあ、いいじゃないか、トシ」

元気あるのは良いことだと豪快に笑った。

「ホラ、神谷君。陽が差してきたよ。夏も近い」

近藤が空を指差した。

厚い雲の切れ間から明るい陽の光が差して幻想的な光景だった。

「わあ、キレイ・・」

セイは感嘆のためいきをついた。

遠くで小さく鳴る雷があった。

「・・遠雷か・・」

土方がポソリとつぶやいた言葉にセイは顔をあげた。

土方は空の遠くに目を向けていた。

ふだんの鬼とは違う表情。

不思議な感じがする。

遠雷・・、いい響きー

セイも彼方へと目を向けて、また土方に目を戻した。

「なんだ、わっぱ」

土方が視線に気付いてジロリとセイを見下ろした。

「い、いえ、なんでも」

豊玉宗匠らしい言葉だなと思いながらセイは再度空を見上げた。

雨の後の独特な雰囲気を味わいながら、

夏が近いことを肌に感じた一時だった。

夏が待ち遠しいです。
2003.06.15 空子

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