白昼夢


「やみそうもないですねー」

沖田が空を仰ぎながら言った。

いつものように、沖田に鍵善へと誘われて出かけた帰り道、

突然の雨にみまわれて、二人は道端に生える巨木の下で雨宿りをしていた。

「空はこんなに明るいのになあ」

セイは首を傾げて降り落ちる雨へと手を伸ばした。

「天気雨のときは、狐の嫁入りが行われているそうですよ」

「キツネって、狐・・ですか?」

「そうですよー。しかも・・」

意味有り気に見下ろしてくる沖田にセイは半歩後ずさった。

のどがコクりと鳴る。

「出くわしてしまうと、幻にさらわれるそうですよ〜」

聞きながら顔を少し青くするセイを不敵に笑いながら木の幹へとおしやって、

逃げ場を無くす。

「お、大人気ないですよ。先生」

「あはは。神谷さん構うとおもしろいですからねー」

ふんっとそっぽを向いたときだった。


チリーン


小さな鈴の音を聞いた気がしてセイは道を見た。

ふいに視界の端に入った風景に視線を凝らす。

通りの向こうから、ゆっくりとこちらへ来る行列。

(・・お嫁入り?)

こんな雨の日に?

先ほどの沖田の言葉が思い出されて

セイは全身から血の気が引くのを感じた。

「土方さんが私のこと構ってたのは同じ気持ちからですかねえ。・・神谷さん?」

着物の端を握り込まれて沖田はセイを見た。

(あれって・・・、私??)

目を凝らすと、霞みがかった雨の向こう側、

白無垢姿で手を引かれているのは、まさしく自分だった。

前を行く婿は・・、

 


(お、沖田先生??)

 

セイの頬が熱くなった。

ゴシゴシと目をこする。

「神谷さん?どうしたんです?」

赤くなったり青くなったりして一点を見つめるセイの視線の先が気になって、

沖田が振り向こうとした。

「わ〜っ、な、なんでもないんですっ!」

思わず沖田の両目を手の平で塞いだ。

沖田も好奇心からか、以外に強いセイの手から逃れようと必死になる。

「あっ!」

身長差もあってか、沖田に背を伸ばされて目隠しはあっさり外されてしまった。

「って、別に何もないじゃないですかー」

期待して振り返った沖田は、何もない風景にがっくりと肩を落とした。

「あれ?」

セイはキョロキョロと辺りを見回す。

あの行列はどこにもいない。

「おかしな人ですねぇ。夢でも見てたんですか?」


沖田がくすくすと笑いながら言う。

いつの間にか雨はあがり、雨の香りだけが漂っている。

「行きましょうか」

沖田がセイを促した。

「はい」



チリーン



セイは先ほどと同じ鈴の音を聞いた気がして振り返る。

(・・・もしかして、化かされた?)

血の気が引くのを感じて沖田の近くに寄った。

 


・・・もしかしたら、自分の願望のあらわれだったのかもしれない。

 

 

少し怖いのと、恥ずかしいのでセイは俯き、

沖田の帯の辺りをキュッと掴んだ。

沖田が気付かない振りをしてくれたので、

セイはしばらくそのまま後ろをついて歩いた。

 

黒澤明監督の「夢」を急に思い出しました。
見たのは幼い頃だったので、むずかしかった覚えがあるのですが、
映像が鮮明に焼き付いていたりします。
それで、このお話浮かびました^^

2003.08.06 空子

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