春やいづこに

 

セイは花を抱えて山南が眠る寺へと足を向けていた。

月命日にはよっぽどのことがなければ必ず足を運んでいる。

日々の報告や、里・正坊のこと。

聞いてもらいたいことはたくさんあるのだ。

「あれ?」

セイは山南の墓前に立ち呟いた。

いつもは掃除からとりかかるのに、落ち葉も雑草も見当たらない。

(先に誰かきたのかな?)

とりあえず持ってきてきた花を生けようとした。

「神谷か?」

後ろから声を掛けられた。

「斉藤先生来てらしたんですか」

振り向くと、花を抱えた斉藤が立っていた。

辺りの掃除を先に済ませてくれたのは斉藤だろう。

「ああ」

セイの隣に座り込み、斉藤が花を生けた。

「花、たくさんで山南先生も喜んでくださってますよね」

セイは笑顔で斉藤を見た。

「そうだな」

斉藤が線香をあげ手を合わせて目を閉じたので、セイもそれにならう。

「・・・飲みにでもいくか?」

しばらく二人、墓前で佇んでいたが斉藤が先に口を開いた。

「はい。兄上」

セイは楽しそうに斉藤の後をついていった。

 

 

「らかられすねー、えらいんれすよー」

相手が兄と慕う斉藤だったので心を許しているからか、

セイは普段は控えている酒を許容範囲外で飲んでしまっていた。

「俺はお前の方がえらいと思うが?」

『大好きな人を亡くしたのに、強く生きる明里さんはえらい』

とセイは先程から泣きながら語っている。

斉藤からしてみれば、他の男に惚れ込んでいる女を囲うほうがよほどえらい思う。

「らかられすね、あにうえ〜」

「なんだ?」

「みまもることにきめたんれす〜」

どうやら今日のセイは泣き上戸らしい。

「好きなようにすればいい」

斉藤はあやすようにポンッと頭をなでた。

「はいっ」

元気良く一度返事をしたかと思うと、そのままパタリと倒れてしまった。

「・・・またか」

斉藤はがっくりと肩を落とした。

明日は朝から一番隊は巡察のはずなので、ここで夜を明かすわけにもいかない。

少しだけと斉藤はセイの寝顔を見ていたが、

明日のことを考えるとこのまま長居するのは良くないだろうと思い、女将を呼んだ。

「清三郎、帰るぞ」

「う〜」

可愛らしく寝返りを打つセイに斉藤は気が気ではない。

少し乱暴に揺り起こす。

目をこするしぐさが童のようで可愛らしい。

(富永が可愛がっていたのも頷ける)

斉藤は少し笑った。

立ち上がれなさそうな状態なので、仕方なくおぶってやる。

屯所まで少しあるので、酔いを覚ますにはちょうど良いかもしれない。

 

(・・・?)

 

ふいに違和感を感じる。

 

どうも男をおぶっているような感覚になれない。

 

(・・・これがあの医師が言っていた病か?)

 

年を重ねるにつれ大人びてはきたが、

どうひいき目に見ても男らしくはならず

自分の中で、いつものようにカンが働いていた。

でも、今回ばかりは外したらしい。

 

 

オレが守ってやらねば

 

 

背中で眠るセイに対し、突然強くそう思い

斉藤は鼻息荒く夜道を屯所に向かって歩いていた。

 

 

斉藤先生、カンは外れてはいないんですけどね^^;
カンを外したことを認めてしまったとき、
セイちゃんが女の子と知ってしまったとしても
見守る側に回ってしまうんじゃないかなぁとか、
斉藤先生には申し訳ないのだけど、考えてしまう私でした><
斉藤さんの春やいづこに・・・(苦笑)

2003.09.14 空子

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