はじまりの合図

あっちへうろうろ
こちらをキョロキョロ
中村が辺りを見回している。

垣根の元に腰を下ろし発句帳に向かっていた土方は視界の端に映るその様子に溜め息をつくと声を掛けた。

「何か探し物か?」

副長に声を掛けられ、中村が姿勢を正した。

「いえ、あの・・・」

言い澱む様に見兼ねて先を促す。

「なんだ?」

「・・・あの、神谷を見ませんでしたか?」

「先程使いにやった。戻りは夕方だ」

「・・そうですか」

がっくりと肩を落とすと中村は戻っていく。
端から見ても残念さが伺えるその背中を見送ると、

「・・・行ったぞ」

ムッスリと土方が口を開いた。

「ありがとうございました」

土方の背後の茂みから辺りを見回しながら抜けだしてきた。

「なにしてやがるんだお前ぇは」

「はぁ」

セイは着物に付いた葉っぱを払いながら立ち上がる。

「総司はどうした」

「おもしろがって助けてくれません」

セイは口を尖らせて外方を向く。

「そうかもな」

中村とセイの子犬のじゃれあいのようなやりとりを何度か目撃している土方は思い出して笑った。

「笑い事じゃないですよっ」

「もう大丈夫だろうからどこかに隠れるなり何なりしろ。俺は忙しいんだ」

「あぁ、豊玉先生の発句のお時間でしたか」

セイがニヤリと笑うのを見て一つ咳払いをすると、無言で一睨み。



がさり



垣根が鳴る。

咄嗟に隠れようとオロオロするセイを土方が引いた。

カサリと音を立てて歩み寄ってきたのは小さな猫。




はあ〜。



二人は同時に安堵の息を吐く。


「「・・・・」」


「も、もうしわけございませんっ」

状況に気付いて慌ててセイが離れた。

「・・・いや。もう行け」

「は、はいっ。失礼します」

セイが小走りにその場を去る。




抱き留められたのは思いのほか広く、暖かな懐


鼓動が早くなる。
頭が混乱する。
セイは後ろを振り向くことができなかった。




咄嗟に懐にしまいこんだのは思いのほか華奢な体


走り去るセイの小さな後ろ姿を見送る。
頭を抱えた。


「ありえねぇ」
「ありえない」


首を振り、長い溜め息をつき、そう同時につぶやいたとかいないとか。


2006.04.27 空子

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