陽のあたる場所

 

ひさかた振りに人を斬った。

人の肉が裂かれる感触。滴り落ちる血。

まだ感触が残っている。

 

足下に横たわる、今しがた自分が刀を振り下ろして

命を奪ってしまった浪人を見る。

 

(こんな日々がいつまで続くんだろう・・)

 

セイは体が震えるのを感じて自身をかき抱いた。

早く、平和な時代が訪れたらいいのに・・・。

セイは夜桜を見上げた。

 

ザァァァァァァ・・・・・


 

満開の桜が風に吹かれて

耳触りなほどにセイの聴覚を刺激し、視界を奪った。



 



「・・セイっ、セイってば〜っ」

ペチペチと頬をたたかれて目を開いた。

稽古後の武道場。

友人を待ちくたびれて知らない内に床で寝こんでいたようだ。

「・・・あれ?」

「あれ?じゃないわよ〜。何うなされてんの?」

「え?ホント?」

言われてみれば、全身に嫌な汗をかいている。

もっていたハンカチで汗を拭う。

「待たせちゃってごめんね。ヤな夢みたの?」

「ん〜、覚えてないんだ。帰ろっか」

セイは荷物を抱えると友人を促して武道場を後にした。

「セイ、沖田先輩だよ」

中庭を歩いていると、友人に小声で方を小突かれた。

前方から歩いてくるのは付属大学の剣道部の沖田先輩。

「今帰りですか?遅いから気を付けて」

「はい。さよならー」

ぺこりと頭を下げると、セイは友人を急かして正門を出た。

「もっと話すればいいのにー」

「そんなことできるわけないじゃんっ」

真っ赤になるセイの頭を友人は笑いながら撫でた。

 


 

沖田総司。

付属の大学の剣道部の先輩。

祖父が師範を努める道場の先輩。

兄の友人。

私の好きな人・・・・。

 

 

 

「早いお帰りですねぇ」

友人と寄り道をして帰ると、居間から聞き慣れた声。

「沖田先輩?」

なんでいるのとセイが目をぱちくりさせていると、

後ろから真っ赤な顔をした兄が顔を出した。

「高校生が関心しないなぁ」

「お兄ちゃん、飲んでるの??」

からんでくる兄をセイが力づくで押さえ込む。

「師範に呼ばれてね。今夜はごちそうになります」

沖田が視線を向けた先には

すでに出来上がってしまっている祖父と父。

「着替えてらっしゃい」

間に引きこまれそうになったセイを母が引き上げ声を掛けた。

「はぁい」

(・・・信じられない、酔っぱらいっ)

ベーッと兄に向かって舌を出し階段を駆け上がった。

 

 

酔っぱらいに囲まれながら楽しく夕飯をとった後

ボ〜ッとテレビを見ていると戦争・虐待・交通事故のこと

見るに耐えないニュースが放送されていた。

「物騒な世の中ですよねぇ」

顔を赤くした沖田がセイの隣に座る。

「・・・富永家も混沌としてますよねっ」

酔っぱらい男性陣に一瞥をくれてセイは唇を尖らせた。

「あはは。たまには良いんじゃないですか?

ウチの両親は海外ですからねぇ。会うこともままならない」

沖田の両親は、父親の海外赴任で共に国外にいる。

彼は高校から寮に入っていて、

たまにこうしてセイの家にやってくるのだ。

「・・・すみません」

「いいんですよ。でもホント良い家族ですよね♪」

沖田にホワンと笑われて、セイも頷いた。

祖父が剣道の指導にとても熱心で厳しいのが玉にきずだけど、

両親がいて、兄がいてと平凡な家族。

ニュースで見るようなことは一度も起こらず平和な家庭。

「わわっ、何か言っちゃいました?」

「・・・・え?」

驚いた様子で沖田がセイを見る。

手近にあったタオルを頬に押し当てられ、

セイは自分が泣いていることに気が付いた。

(・・・・なんで?)

どうしたら良いかわからない風に

ただタオルを押し当ててくれる沖田を見た。

どんどん涙が溢れてきて、

胸が痛くてセイは胸元をにぎりしめた。

「・・・・風にあたってきます」

タオルを受け取って、笑い声の絶えない居間を後にした。

 

四月の夜は、空気が凛と澄んでいて少し肌寒さを感じた。

その冷たさが今の火照った体にはとても心地よい。

大きく深呼吸を繰り返す。

 

ヒラリ

 

どこからか白い小さな光が目の前に舞い降りた。

手を差し出すと、それは小さな桜の花びらだった。

(近くに桜、あったかな・・・・)

ふわりふわりと風が運んできてくれた花びらを追いかける。

「もう春なんですねぇ」

いつのまに庭に出たのか、

掌に花びらを誘い入れながら沖田が笑う。

「沖田せんぱい」

「いいですねぇ。風になりたいもんですねぇ・・・」

「え?この花びらみたいに

飛んでみたいとかじゃなくてですか・・・?」

 

(・・・・あれ?)

 

セイは首を傾げた。

 

 

『うんと強く吹いて

うんと高い空まで先生を舞い上げるんです』

 

 

「えぇ。たとえばこんな風にね、

うんと高い所に何かを運んでみたりとかね」

ザァァァと音を立てて桜の花びらが舞い上がる。

一瞬強く吹いたかと思うと、今度は穏やかに風は吹いて

花びらが舞い降りてきた。

 

 

『そんな仕事ができるなら

私は死んだって構わないんだ』

 


(頭イタイ・・・・)

 

 

・・・・沖田先生

 

 

視界に靄がかかる。

 

「セイちゃん?!」

『神谷さん』

 

 

・・・・・沖田先生

 

 

駆け寄る沖田の姿に別の姿が重ねられて混乱する中

セイは意識を手放した。

 

 

 

目を開くと自分を見下ろす心配そうな顔。

「・・・沖田せんせ?」

「よかったー。三日も眠ったままだったんですよ」

心底安心したような沖田の声音。

セイの隣にパタリと横になった。

「沖田せんせ・・」

「どうしました?」

「・・夢を、見てたんです」

天井を見つめセイは口を開いた。

「どんな?」

沖田が興味津々な様子でセイの隣に肘を立てて寝転んだ。

「・・幸せな夢でした。

父上・母上・兄上、・・・沖田先生もいて・・」

美味しい食事をして、大好きな剣を交えて、好きな人がいて・・・。

そして何より、

「争いのない世界でした」

異国の印象を受けたその場所は、とても幸せな空間だった。

「そういう世の中になるよう礎を築くことが

私たちの役目なんじゃないですか」

ね?と微笑まれて少し癒される。

「・・・はい」

願わくば、明るい未来があることを。

その時、自分はこの世にはいないかもしれない。

でも叶うのなら・・・。

「そしたら、江戸に帰って美味しい物食べましょうね♪」

「え・・・?・・・はい♪」

沖田の言葉に自分も未来を共に歩める気がしてセイは頷いた。

「さぁさぁ、もうしばらくお休みなさい。

・・・だぁいじょうぶですよー。ここにいますからね」

無意識で沖田の袖を掴んでいた手に

やんわりと暖かな手重なった。

「・・・・はい」

握りしめた手をそのままに、促されて瞳を閉じる。

「子守歌でも歌いましょうかねぇ」

クスクスと笑いながらセイの頭をなでる大きな手。

それが心地よくて、セイはまた眠りについた。

 

藍華様大変長らくお待たせいたしました(汗)
こんな感じになりました。
今回は、難産でした^^;
でも、楽しかったです。
リクエストありがとうございました。
これからもよろしくおねがいいたします(*´∇`*)

2004.03.31  空子


 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送