瞳を閉じれば

 

「かわいい顔して」

昼餉を済ませた午後、明里はいつの間にか眠り込んでいるセイに

手近にあった着物を被せると静かに部屋を出た。

 

「うん、えぇ天気」

空を仰いで洗濯物を抱え直した。

天気も良いので、やんちゃな正坊の汚れ物も一気に洗濯してしまう。

暖かくなってきた陽気からか、何だか気分が良くて自然に口元が緩んだ。


『何がそんなに楽しいんだい?』

 

ふいにそんな言葉が思い出されて明里は瞳を閉じた。

 

 

ふわりと風が運ぶ花の香りと、差し込む朝日が心地よくて

桟に肘をかけて空を見上げる自分に歩み寄ってくる静かな足音。

大切な大切な時間。

 

 

「あ・・・・・・」

突然のつむじ風に我に返る。

風に飛ばされ舞い上がった手ぬぐいを見上げた。

見上げた空に浮かぶ昼前の白い月が目に飛び込んできて、

なんだか綺麗で見とれてしまった。


 

『月が・・・・』

『あぁ、昼の月も綺麗だね』

春の風が運ぶ花の香りを楽しみながら二人で桟に肘をかけてしばらく空を見上げていた。

 

 

(山南はん・・・・・・)

瞳を閉じれば大好きな山南の姿が浮かぶ。

それだけで、どれだけ強くなれただろうか。

(あなたにとって、私もそうだったんやろか・・・・・・?)

優しい笑顔。まだ覚えてる。

 

 

 

明里は瞳を開いた。

かすかに風が運んでくれる花の香り。

大きく吸い込んで明里は嬉しくなって笑った。

 

 

「いっけない、今何時だろ?」

セイは外から差す陽の光で目を覚ました。

強い陽射しから今が正午過ぎているのがわかる。

家のこと、いっぱいお手伝いしようと思ってたのにっ。

(お馬の時って、何でこんなに眠いんだろ?)

まだ開かない目をこすりこすり廊下に出た。

明里の姿がない。

買い物にでも出たのかな・・・・?

「・・・・・ぁ」

洗濯してたんだ。

セイは明里の姿を中庭に見つけて歩み寄った。

なんだか楽しそうに笑ってる。

「・・・・・・・・・・」

 

それはとても綺麗な光景で、しばらくその場を動くことができないでいた。

 

 

「何がそんなに楽しいの?」

 

 

しばらく見入っていたけれど、我に返って明里に問うてみた。

「・・・・・ぇ?」

明里の肩がビクリと跳ね上がるのがわかった。

「あ、ごめんなさい。驚かせちゃった?」

一瞬惚けた顔で自分を見る明里に頭を下げた。

「・・・・・・寝ててもええんよ?」

「ううん、手伝う♪」

「あ、ほら、そんなに急がんと・・・」

下駄を慌ただしく履いて庭へ降りてくるセイに明里が手を差し出した。

「えへへ」

「なんやの、変な子やねぇ」

「なんでもなーい」

セイは洗濯物を広げて干していく。

ぎこちない手つきに山南を思い出してしまう。

 

「風、気持ち良いね」

「そうやね」

セイにならって瞳を閉じた。

 

 

瞳を閉じれば あなたが まぶたのうらに いることで
どれほど強くなれたでしょう
あなたにとって わたしも そうでありたい

 

 

明里さんのお話です。
山南先生は明里さんには幸せに生きていって欲しいと願っているんじゃないかなぁと思います。
でも、私は明里さんが他の人とというのは考えられなくて、
この恋を一生一度の恋として生きて欲しいなぁなんて考えっちゃったり・・・。
ごめんなさい><

大好きなレミオロメンの「3月9日」を聞いてお話浮かびました^^

2004.05.22  空子

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