蛍
夏も盛りの暑い夜。
セイは夜中、隊士たちが深い眠りについた頃合を見計らって、
戸端で水浴びをしていた。
冬ならまだしも、夏は体を拭くだけでは体中がベタベタして仕方ない。
周りを気にしながら着物を整えて、こっそりと部屋へと足を向けた。
月の光だけが照らしだす薄暗い庭を歩くセイの前を、
ヒラリと淡い光が横切った。
ホタル…?
過ぎ去った光を目で追うと、一つ、二つと光が増えていった。
キレイ・・・
このまま眠ってしまうのがもったいなく感じられて、セイは縁側に腰掛けた。
幻想的なその風景に、時間を忘れて見入ってしまう。
どれくらいそうしていたのだろうか、しばらくすると隣に腰掛ける者があった。
「斉藤先生」
「眠れないのか、清三郎」
「ホタル見てたんです。眠ってしまうの勿体なくって」
「そうか・・・」
斉藤はセイを見る。本当に嬉しくて仕方ないという顔をしている。
その顔が可愛らしくて、斉藤は無意識にセイの頭をなでた。
兄に似た大きな手のひらが頭をなでるのに身を任せて目を閉じた。
「・・・兄上に、夏はよくホタルを見に連れていってもらったんです」
浮かぶのは、まだ女子の姿で暗い夜道を祐馬に手を引かれている自分。
暗闇はこわかったけど、兄の手の暖かさに怖さを忘れていた自分。
懐かしい憧憬。
「・・今度、見に行くか」
ポソリと兄に似た声がして、セイは顔を上げる。
斉藤はあらぬ方向を向いていて、表情は見れない。
「はい。兄上♪」
庭のホタルに目をむける。
「そろそろ寝よう」
斉藤はのそりと立ち上がった。
「はい」
セイも名残惜しそうに立ち上がり部屋へと入った。
後日、セイが斉藤と連れだって屯所を出ると、
前方には永倉・原田・藤堂、屯所からは沖田。
はち合わせをして、計6人でのホタル見物となった。
楽しそうな、にぎやかな一行が町を行く。
そんな中、ただ斉藤だけが眉をしかめながら歩いていたそうな・・・(笑)
ホタルをもう何年見ていないか。
斉藤さん報われない・・・でも好きです。
2003.06.29 空子
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