紡ぐ心


「おセイちゃん。何はじめはんの?」

なにやらガサゴソと机に何か並べだしたセイに里が声を掛けた。

「あ、コレ?えっとね、近藤先生が手習いをしているのを見習おうかなと思って」

お馬で休暇をもらっている間だけでもと思い用意してきた道具一式。

「ほなこれ使う?」

里が奥から何やら持ってきた。

「手習いの本?」

パラパラとめくると中にはお手本になる文字が並んでいた。

「そう」

教養の一環として習ったことがあるらしい。

中からパラリと一枚落ちてきた。


「これ、お里さんが書いたの?」

「こんなところに・・・」

手渡すと里が微笑んだ。

覗き込むと綺麗な文字。

 



「いとし いとしと いう こころ?」

 



「そう」

愛しそうに撫でる。

その様子が何だか意味深で気になる。

「どういう意味?」

「山南先生に習ったんよ」

「?」

意味が分からないセイに筆を持たせると、背後からやんわりとその上から筆をとる。

そのまま一文字一文字確かめるように。

柔らかくサラサラと紙に筆が流れていく。



「お里さん?」



今度は漢字で綴られる。

用紙の中央に柔らかな一文字。

 

『恋』

 


「・・・ぁ」

セイの頬が緩む。

その様子に里も微笑んだ。

「山南はんがね、同しように書いてくれはって・・・」

一文字ずつ愛しそうに綴っていく。

「嬉しいてね」

優しい香りと共に優しい吐息。

「そっか・・・」

意味が分かると書にむかう姿勢も変わる。

里と山南の恋はこういう形だったんだろう。

 

やわらかく、あたたかく・・・。



では、自分は?





「・・・お里さん?」

里の視線が気になって筆を下ろせない。

「ふふふ。気になって♪」

「お里さ〜ん」

「夕餉の用意でもしてきまひょ」

クスクス笑うと里は席を立った。

遠ざかる里の足音に大きく一息ついて瞳を閉じる。





(沖田先生)

 



顔を思い浮かべてみる。

 



『神谷さん』

 


声を思い出してみる。

温かな手を思い出してみる。




「・・・・」




セイは一つ深呼吸をすると筆を硯に下ろしたのだった。







「いとし いとしというこころ」

糸糸 → 糸言糸 = 恋
  心

「恋」という字。
こういうふうに書くんですって^^
その書体から「紡いでいく気持ち」
と自分なりに解釈してできたお話です(*^∇^*)

2005.11.03 空子

 

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