放風箏

 

暑い夏の日の午後、八木家と近所の子供たちとセイは河川敷に凧上げにきていた。

セイにとっては久しぶりのゆっくりできる午後だった。

笠をかぶっていても暑さは凌げず、

セイは木陰を見つけて腰掛けてぼんやりと真っ青な空に舞い上がる凧を眺めていた。



(風になりたい・・・か)

 

いつだったか沖田が言った言葉を思い出した。

確か、あの時もこんな風に凧を見上げていたっけ・・・・。

セイは人の生死のやりとりが盛んな日々に正直辟易していた。

そして、真の武士になると決めた筈なのにそんなことを考えるようになった自分にも落ち込んでいた。

 

はぁ・・・・

 

一つ大きく溜め息をつく。

凧上げに夢中な子供達は無邪気で、そんな自分を癒してくれる。

 



「ずるいですよー神谷さん。凧あげなら私も誘ってくださいよぅ」

近藤局長を象った凧を持って、息をきらせた沖田がどっかりとセイの隣りに腰を下ろした。

「沖田先生」

「おや、元気ないですねぇ」

「いえ・・・・」

沖田に顔を覗かれて、セイは俯いた。

しばらく何も話さず二人、凧を眺めていた。

 

 

「目鼻は有るが息はせず、

天に上ってゆくでなし 地面に落ちてゆくでなし・・・・。これなぁんだ?

 

 

「はい?」

理解できずにセイは首を傾げた。

「なぞなぞです♪」

 

「・・・・・・・・わかりません」

 

しばらく考えた後、セイは降参と手を挙げた。

セイの悔しそうな様子に満足した沖田は空を指さした。

「あれです♪」

指さされた空を見上げるけど、雲一つ無い晴天。

セイはわからないと沖田を見た。

「答えは・・・・・コレですよー」

沖田お手製の凧をセイに差し出した。

「『凧』?」

「そうです☆☆」

沖田はニッコリ笑って体を倒し空に目を向けた。

ポンポンと隣を促されてセイも横になった。

「あ〜っっ!落ちたぁ」

子供達のキャーッという声にセイは驚いてガバリと起きあがった。

 

「・・・・沖田センセ?」

いつもは何かあれば真っ先に首をつっこむ沖田が考え込むように空を見上げている。

(なんか変っ)

いつもと変わらない筈なのに、どこか違和感を覚えてセイは隣の沖田を見た。

「あがったぁvv」

再び上がった凧に歓声をあげる子供達の声を聞きながら、セイは沖田の言葉を待つ。

 

「・・・・私たちって、凧みたいだと思いませんか?」

 

「・・・・え?」

 

「見えない誰かの手で糸をひかれて操られているだけなんじゃないかなと。

全ては・・・・、全ては、そう。誰かの筋書き通りに運んでいるだけではないのかなと・・・・」

 

「どうして・・・・・」

そんな事を考えるんですか?

セイは言葉を続けられずに俯いた。

突然強風が吹いてセイは髪を押さえた。

 

「あ〜っっ!」

 

子供達の大きな声に、二人は目を向けた。

「切れてしもた〜」

子供の声に空を見上げると、糸の切れた凧が風に乗ってフワリフワリと離れて行くのが見えた。


 

「もし、そういうのが嫌で己の力でぐんぐん舞い上がり、自分でその糸を切ってしまったら・・・・・

その時私たちはどうなってしまうのでしょうね?」


 

高く遠く舞い上がっていく凧を見つめて沖田が呟いた。

「・・・・・・・・」

セイは何も言えずに凧から視線を外した。

「・・・・・切れた凧は蝶になって飛んで行くと聞きました。

蝶なら誰かに追ってもらえるでしょうが、私たちは・・・・・」

 

風に流されて、あてどなく漂うばかり。

 

セイは沖田が言いたいことが何となくわかった気がして俯いた。

国の為と信じて疑わず闘ってきた新選組。

でも、世情は自分たちの進む道とは逆の方へと歩もうとしている。

その時、自分たちはどうなるのだろう・・・・・・?

「や、やですよ。沖田先生。そんなこと言わないでくださいっ。じゃないと私は・・・・」

 

何の為に私はココにいるの?

 

目頭が熱くなるのを感じた。哀しいのか、悔しいのか、全部ひっくるめて涙が零れた。

「私は、局長や沖田先生について行くと決めていますっ。

生きるのも、死ぬのも、新選組と一緒ですっ!

私たちは間違っていない筈です!!」

セイは沖田の襟元を掴み叫んだ。

一度溢れた涙はすぐに治まることはなく、ボロボロと流れるままに沖田の目を真っ直ぐに見据えた。

セイの表情を見て驚いた沖田の顔が、ホウッとしたように笑った。

「・・・あなたなら、そう言ってくれると思ってました」

セイの頬に手を添えながら沖田が言う。

「・・・え?」

「実はですね、この話、京へ上る際の山南さんの言葉なんです。ふいに思い出してしまって・・・・」

山南先生は、そんなに前から自分たちの行く末を案じていたのだろうか・・・・?

確かに大きな決断をするとき、その先をいくらかは見据えて踏み出すものではあるけれど。

「私もね、近藤先生達について行きたいばっかりだったから、

山南さんの言いたいことの少しも理解できなかったんですよねぇ」

私も少しは大人になったということなんでしょうかねぇ?

沖田が苦笑した。

 

バチンッ

 

大きな音。セイが沖田の頬を張った。

「目、覚めましたか?」

「・・・・・」

「目、覚めましたか??」

「え、えぇ」

叩かれた頬を押さえて沖田が呆然とコクコクと頷いた。

「良かった。では・・・・・私の頬も打ってください」

「はい?」

「先生に手を挙げた罰です」

眉根を寄せて、覚悟を決めたセイは目を閉じた。

「じゃあ、いきますよ」

「はいっ」

沖田の手が上がるのを感じてセイは更に目を強く瞑った。

 

(・・・・・・?)

 

頬に衝撃はなく、代わりに強い力で引かれると同時に沖田の声がした。

状況を理解できずに目を開くと、眼前は沖田の首元で・・・・・

「お、沖田せんせっ??」

驚いて暴れるけれど、その腕はいつものふざけた様子と違って強く離れられない。

 

 

「ありがとう」

 

小さな声と共に離れる沖田に状況を把握したセイは真っ赤になった。

沖田は呆然とするセイを横にすっくと立ち上がる。

「何だかスッキリしちゃいました。近藤先生の凧、上げてきますね」

セイに背を向けたまま凧を取ると、沖田は土手を駆け下りて子供達の元へと駆けた。

(・・・・・・なに?)

セイは後ろ姿を見送って、まだ惚けていた。

耳元で囁かれた言葉を思い出す。

『ありがとう』そう言った沖田の頬も赤かった。

歓声が上がった方を見ると、丁度凧が上がるところだった。

子供達とはしゃぐ沖田は、さっきまでの様子と変わっていつもの沖田に戻っている。

「神谷さーん♪」

「神谷はーん、見て見てーっ♪」

凧をもっと高く舞い上げるように走る子供達。

風に乗ってぐんぐん上がる凧。

こっちへおいでと大きく手を振る沖田と子供達に、セイは立ち上がって草を払うと土手を駆け下りた。


 

萌子様、お待たせいたしましたっっ☆☆
やっとのお届けです。
黒い総司というのが私的にイメージわかず、
いつもと違う弱気な総ちゃんでお話書かせていただいちゃいました。
最後でちょこっとラブで^^;
スミマセン〜><
未熟な作品ですが、もらってやってくださいませ。
リクエストありがとうございました☆☆
これからも、よろしくお願いいたします(*´∇`*)


『風箏』は、中国語で『凧』だそうです。
風光るに合ってる気がして使いました^^

2004.04.11 空子

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