怪我の功名

 

斉藤は何日かぶりに稽古を楽しい時間と思えるようになっていた。

「もう一本お願いしますっ!!」

視線の先には神谷清三郎。

今日も元気に自分よりも一回りも二回りも大きな相手に立ち向かっている。

 

 

「斉藤先生っ!」

 

 

まわりに急に呼ばれて振り向くと、

突き飛ばされた隊士が自分の方へと倒れこんできた。

 

 

ガツンッ!

 

 

鈍い音と共に目の前が真っ暗になったところで

セイの声を聞いたような気がしたけれど、そこで意識がとぎれた。

 




「・・・っ」

「大丈夫ですか?斉藤さん」

体を起こすと、心配そうな沖田の顔。

軽い脳震盪か、まだ頭がグラグラして眉間に手を添えた。

「・・・だいじょうぶだ」

文武館から近い部屋に担ぎ込まれたらしく、

威勢の良い気合いの声と竹刀のぶつかりあう音がそう遠くない所から聞こえる。

(まだ稽古中か・・・)

そう長い時間昏倒していたわけではなさそうだ。

「斉藤さん、これ何本か分かります?」

沖田が手をヒラヒラとさせるとピタリと止め斉藤の目の前に指を差し出した。

「・・三本」

ハッキリと見える。

「残念でした〜。答えは四本でし・・・った〜」

ガツッ!

「何ふざけてんですかっ!!」

桶に水を貯め手ぬぐいをもってたセイが沖田の頭を殴り付けた。

「ひどいですよ神谷さ〜ん」

「手の裏に隠した一本なんて誰も見えませんっ!」

いたずらっ子のように舌を出す沖田を膝で押しやると斉藤の枕元に座り込み

冷たい水に浸された手ぬぐいをしぼって手渡した。

「大丈夫ですか?斉藤先生が巻き込まれるなんて、だいぶお疲れなのではないですか?」

セイに見惚れていて気付かなかったとは言えず、

「そうかもしれんな」

軽く咳払いをして応えた。

 

 

「総司〜っっ!!早く戻ってこ〜いっっ!!」

たまたま巡察後に道場の側を通りかかってしまい

抗議するまもなく稽古場を任された永倉が不満そうにこちらに向かって叫でいた。

「はいはいはいはーい。では、私は戻りますね」

総司がよっこらしょっと立ち上がった。

「俺も戻る」

「だめですよ〜」

「今日はゆっくりお休み下さい。たんこぶできてますし・・・・・」

起きあがろうとする斉藤を沖田とセイが二人同時に制した。

「斉藤さんを頼みますね」

「はい。かしこまりました」

沖田は竹刀を抱えてパタパタと廊下を駆けて行った。

「先生、手ぬぐい変えましょう」

「ああ」

セイは斉藤の手から手ぬぐいを受け取り、

新しく冷やした手ぬぐいを斉藤の額に押し当てた。

 

 

「・・・・良い風だな」

庭の木の葉を柔らかく揺らして開かれた部屋に心地よい風が入り込んでくる。

「そうですねぇ」

気持ちよさそうに目を細めるセイを見上げた。

 

(・・・こういうのを怪我の功名っていうのか?)

沖田に邪魔をされず、セイは自分の隣にいる。

何をするわけではないし、自分は醜態を晒してしまったわけだけれど・・・。

 

風が心地よくて瞼を閉じた。

 

 

「斉藤せんせ?」

取り替えられる手ぬぐいの気配。

「眠られたのですか・・・・?」

柔らかい声音と心地よい風に

久しぶりに深い眠りへと誘われていった。

 

 

総ちゃんに「これ何本だ♪」をやってほしくて
この話浮かびました。
昔、私が部活中に友達にされたネタです^^;
あまり隙がない斉藤さんも、たまにはこんなことあっても良いんじゃないかなと^^

2004.04.24 空子

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