君がまにまに

 

「あ〜もうっ!」

手に豆を増やして、足の裏の皮がよれるくらいに稽古しても納得が行かずセイは野原にしゃがみ込んだ。

沖田に女だということがばれてしまったのは誤算だったけれど、

何とか壬生浪士組に入隊でき、

父そして兄の敵打ちの為に日々稽古に励んでいるのだが一向に皆には追いつける気がしない。

他に女子と知れてしまうわけにはいかないので誰にも弱みを見せるわけにもいかず、

暇を見つけては一人、こうして稽古をしていた。


「いやんなるな〜」


竹刀を下ろすと自分には大きく重い大刀を見る。

(兄上・・・)

初夏の風にそよそよとふかれて揺れる野草が慰めるようにセイの頬を撫でる。

一息ついて瞼を閉じた。

 



「・・・斬られたのかと思いきや眠りこけてるだけか」

「声が大きいぞトシ」

「たまにいなくなるなあとは思ってはいたんですよねぇ」

(・・・・・・?)

人の気配にセイは目が覚めた。

「・・・・前にも同じようなことあったよな」

「え、どんなですか?」

沖田が興味津々に問う。

「七・八年前になるか?近藤さんと歩いていたら草むらにガキが倒れてやがんだよ。

人買いにでもさらわれてきて捨てられたのかと憐れに思って近付いたら眠りこけてやがるだけでな」

(・・・ふーん)

セイは目を閉じたまま三人の話に聞き入った。

「ああ、そんなこともあったなあ。それが竹刀を抱えた可愛らしい女の子だったんだよなぁ」

近藤が思いだしてクスリと笑った。

「へぇ〜」

「起こして話を聞いてみると『兄上と立派な武士になるから強くなる』って泣きやがんのさ」

突然現れた見知らぬ二人にどうしたらよいのかわからずに咄嗟に口をついた言葉がそれで、

竹刀を抱えてワンワン泣く子ども。


(・・・あれ?)


『それじゃ稽古たくさんしなくちゃいけないな』

頭をガシガシと撫でてくれた父や兄とは違う武骨そうな大きな手。

「トシはなんだか気にいってしまったらしくてなぁ少しだけ稽古つけてやったんだよ」

「へ〜。土方さん直々にですか?私には意地悪ばかりだったのに珍しい〜」

「だよな〜」

近藤が笑う。

「送ってやろうと思ったところで、捜していたらしい童の身内が慌てて駆け寄ってきてな」

兄上に呼ばれて嬉しくて駆け寄った。

(・・・その話の子って私じゃないっ?!)

セイは思い出して慌てる。

自分と近藤・土方を見て、いじめられているか誘拐かと勘違いしたらしい祐馬は

稽古帰りだったこともあって持っていた竹刀を構えてセイと二人の間に立ちはだかったのだ。

「すぐに誤解は解けたんだけどな」

思い出してムッスリとした土方の声音。

「それ以来、その子には会ってないなぁ」

「まあ、年を考えりゃ嫁にでもいってガキの一人はいるんじゃないのか?」

土方が笑う。

「へぇ〜」

沖田も笑う。



(私は武士になる為にいまだ修行中ですよ)



言われて当の本人であるセイは少し拗ねる。

自分でも、なぜコウイウコトになったのか、深く考えたことはなかった。

「まあ、その様子がこの神谷君と重なったわけだよ」

「そうなんだよな」

ジッと二人からの視線を感じてセイは内心ヒヤヒヤで・・・、


「あはは〜。神谷さんもまだまだ子供ですもんね〜」

「さて、戻ろうか」

近藤が一言声をかける。

「そうですね」



(?!)



沖田の声と共にふいに感じた浮遊感に驚く。

「あなた、昔から面白い子だったんですね」

小声で囁かれて、パチリと目を開いた。

「ぇ?わっ」

言葉を返す間もなく沖田におぶわれる。

沖田にはその子供がセイ本人だということに気付かれたらしい。

「たぬき寝入り〜」

小さく沖田が笑う。

セイは図星を突かれて何も言えずに俯いた。




「本当にまだまだガキだな」

ひょいっと軽々とおぶわれるセイを見て土方が言った。

「敵打ちの為とはいえ入隊させて良かったのだろうか・・・・・」

神妙な近藤の声。

「何言ってんだよ近藤さん。・・・入隊はこいつの意思だ」

局長・副長の会話に、セイの体がビクリと反応する。

(そうだ。その為に入隊したんだから・・・)

へこたれてなんていられない。

セイの体が強ばった。


「・・・・・・・・」


突然沖田の体がセイを抱え直すようにピョンと跳ねた。

「わっ」

バランスを保とうと慌てて沖田の首にしがみつく。

しがみついたところにポンポンと暖かい手が触れた。


「・・・沖田先生?」

「急ぐことはありませんよ」

焦らなくても、日々の積み重ねが実を結ぶというものだ。

セイがその意志を持って日々を重ねていくのなら、一歩、一歩と近づけるはず。

「・・・はいっ」

「おい、総司!置いていくぞ」

「待ってくださいよ〜っ!神谷さんつかまっててくださいね」

「はいっ」

感じた人の温もりに少し落ち着いて、安心して体を預けたのだった。


 

奏さまへ
大変お待たせ致しましたー^^
「なんというかのほほんなお話を。局長・副長も」
とのことで、こういったお話になりました。
いかがでしょうかー><
もらってやってくださいm(__)m


まだまだ局長達も気ままに暮らしていた江戸の感覚が抜けていない感じで
まだ総ちゃんも上司という感じで・・・←??

まにまに=事の成り行きに従うさま
(君がまにまに=セイちゃんの意のままに)

リクエストありがとうございました。
これからもよろしくおねがいいたします(*^∇^*)

2005.03.28 空子


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