姿を見ると 鼓動が早くなる
声を聞くと 鼓動が早くなる

これって、病気?


静寂の鼓動


バタバタバタ。京の都を二人の武士が駆けていく。

「なんで追ってくるんですかーっ」

息を切らしてセイが後ろを振り返った。

「なにもないのに逃げる神谷さんが悪いんじゃないですかー」

「もう追わないでください!!」

息の乱れもない余裕の沖田の様子にセイは舌打ちすると、更に勢いを増して駆けだした。

 

ことの起こりはつい三日前。

体の不調にセイは医師 松本良順を訪ねていた。

「で、本当のところどうなんでしょうっ」

「・・・ちょっと待て」

セイが眉間に皺をよせ難しい顔でにじり寄ってくるので松本は思わず体をひいた。

「ですが・・・っ」

実際診察してみたところセイの体はいたって健康そのもので

何ら心配することはないと判断した。

でもセイは信じず松本の言葉を待っている。

(ある特定の人物の姿を見ると鼓動が早くなる?声が聞こえると鼓動が早くなるだぁ・・・?)

松本は溜め息をついて不安そうに自分を見るセイにチラリと目をやった。

(そんなのおめぇ・・・・沖田恋しやってやつだろうが)

やってられないと頭をバリバリと掻いた。

が、その一瞬後に思いついたようにセイに切り出した。

「・・・・あのな。清三郎」

「・・・はい」

「一つ面白い話をしてやろう」

「・・・・・?」

眉をひそめるセイに一つ咳払いをすると松本が語り始めた。

「生き物にはな、一生涯の内で心臓が打つ鼓動の数っていうやつが決まってるんだそうだ」

「・・・・そんなお話を聞きに来たんじゃありません」

セイは鼻息荒く詰め寄った。

「まぁ聞け。たとえば・・・・・」

松本が縁側を這う蟻を指さした。

「こいつ。それに俺、清三郎お前もだ。生まれてから全ての生き物の心臓は

同じ回数だけ打つってことだ」

「はぁ・・・」

「緊張したり、悩んだり。感情に伴って体には変化が訪れる。平静を装うのは難しいだろう。

だがな、それを押さえる精神力っていうやつも大事なんだ」

真剣に聞くセイの様子がおもしろくて、松本は緩みそうになる頬を引き締めた。

「まぁ、お前は未熟だしな。まず手始めに、その原因とやらを遠ざけてみてはどうだ?」

「・・・え?」

「守りたいモンがあるんだろ?それなら必要なことなんじゃねえか?」

しばらく考える仕草を見せていたセイの顔がみるみるうちに青くなっていった。

(・・・度がすぎたか)

茶化すつもりでついでた嘘だったが、顔色を変えて首を項垂れるセイにちょっとした罪悪感。

「・・・・わかりました」

セイが急に立ち上がる。

「勉強になりました。では、失礼します」

「え?おい?おーい」

焦る松本の声を後ろにセイは意を決して部屋を出たのだった。

 

 

とはいえ、狭い屯所内でしかも隊務は一緒。

会わないようにするのは至難の業で、

隊務の時間以外はなるべく近づかないようにと試みるのだが

その仕草はかえって不自然なのか、

屯所内を沖田のセイを呼ぶ声が響き渡った。

そうなると反応してしまうのは部下の性なのだろうか・・・・。

えぇい、くそっ!とセイは後ろからの気配を感じなくなって足を止めた。

とぼとぼと歩き出す。

(・・・・ここ、どこだっけ??)

いつの間にか来てしまった町外れ。

明かりもまばらなこの場所に一人でいるのは少し不安になってくる。

しばらく歩いて落ち着いて周りを見ると、何度か巡察で訪れた場所だった。

「平静を保つって大変だね」

てくてくと道なりに歩けば、自分がどこにいるのかどんな場所なのかわかって

ホッと息をついた。

人の良いおじさんが立つお店。腰の悪いおばあさんがいる家。

この道を抜ければ土手が見える。

たどり着いた土手を上って腰を落ろした。

冷静になって周りを見れば、今まで見えなかった物も見えてくる。

もしかしたらそれは、人間関係にも言えるのかも知れない。

(一番近い場所で生きて、先生を守るって決めたんだもんね)

それは、危険がせまれば体を張れるくらいの決意。

「よしっ。帰ろっ」

膝をパンッと叩くと、小さく気合いを入れて立ち上がる。

「『よし』じゃないですよ。まったく」

突然の背後からのからの声にセイは驚いて振り向いた。

ガサリ ガサリ いつもと違う落ち着かない足音に

その声の主が少し怒っているのを感じられた。

「お、沖田先生??」

「はい、そうですよ。本当にあなたって人はどれだけ心配かけたら気が済むんです?」

(お、怒ってる〜)

セイは踵を返すと走り出そうと一歩踏み出した。

「逃げるなっ!」

「・・・・ぇ?わっ」

いつにない怒声に慌てたせいかバランスを崩してしまい、土手を転がり落ちた。

「ぃったぁ〜」

「それはこっちの台詞ですよ」

握り込んだ掌の内に着物の生地を感じてセイは目を開くと

沖田のムスッとした様子の視線と合った。

倒れる瞬間に出された腕にしがみついてしまったらしい。

「す、すみませんっ」

掌を開くと慌ててその場から離れようと膝を立てた。

「・・・・お待ちなさい」

がしりと腕をつかまれて、そのまま倒れ込んだ。

「ちょ、沖田先生?」

バランスを保てず沖田の開かれた腕へと抱き留められる形になってしまいセイは慌てた。

「・・・・どこも、ケガはありませんか?」

ムスッとした声。

「・・・・はい。すみません」

「良かった」

早くなる鼓動。こんな状態、早く脱したい。

「・・・・神谷さん」

頭上からの声に、顔を上げた。

「私、何かしたんですかね?」

「え?」

「このところ、私のこと避けてたでしょう?叱られるようなことしちゃいましたかね・・・?」

「ぁ・・・・・、違うんです」

先日の松本の処であったことを話した。

 

「なぁんだ、そんなことだったんですか・・・・」

「なっ、なんだじゃないですよ!私は先生をお守りすることだけ考えてるんですから!!

そりゃぁ、剣技や徒手でも先生には勝てないですが、それでもっ

・・・って何がおかしいんですかっ!」

突然笑い出した沖田に全身の力でもって体を引き離すと沖田をにらみつけた。

「いえね、気になるのなら・・・・・」

体を起こした沖田においでおいでと手招きされてセイは膝で歩み寄った。

不思議そうに自分の顔を見上げるセイに沖田は自分の左胸の辺りを指さした。

「・・・わっ」

「ほら・・・・・ね?」

突然押しつけられた先は沖田の胸。

トクン トクンと自分と同じように早く打つ鼓動。

「同じでしょう?」

「・・・・はい」

「だから、気にしなくても大丈夫だと思うんですよ」

もっと聞いていたくて瞳を閉じると、あやすような拍子で打たれる背中。

「はい」

「・・・・良かった」

「ぇ?」

「ほんっとうに、何かしてしまったんじゃないかとドキドキしていたんです」

いつにない雰囲気に、一瞬女子に戻っていたセイはガバリと顔を上げた。

「だって、思い当たる節がちらほらと・・・・」

語り始めた沖田の心臓の音が先ほどよりも早くなる。

(この、野暮天!!)

「・・・・先生」

「あれ?バレてた訳じゃないんですか?」

沖田の鼓動が増々早くなる。

「・・・・せんせぇっ」

「神谷さん、落ち着いて、落ち着いて・・・ぐぇっ」

セイは無防備な首元に手をのばして襟を締め上げた。

「ごめんなさい、ごめんなさいー」

降参と手を上げる沖田に一つ溜め息をつくともう一度、一瞬だけ胸に耳を押し当てた。

トクン トクン トクン

自分の鼓動が早くなるのを感じる。

 

姿を見ると 鼓動が早くなる
声を聞くと 鼓動が早くなる

これって・・・・・・。

 

セイは顔が赤くなるのを感じて立ち上がると、沖田を残して屯所への道を駆けだした。

 

「生き物にはな、一生涯の内で心臓が打つ鼓動の数っていうやつが決まってるんだそうだ」
松本先生のこの言葉、以前に何かで読んだんです。
もちろん本当の話ではないと思います。
でも、ビビリな管理人はなんだかすごく考えさせられたのを覚えていて
そしたらこんなお話できました。
微妙に恋話?
16巻を読んでいて、総ちゃんは心の奥底ではわかっているのに
無意識に気づかないようにしていると思うので、こんなラストに・・・・。
静寂な鼓動。総ちゃんの鼓動のこと・・・みたいな?
・・・・何が言いたいのか自分でもわからないです^^;

2004.09.24 空子

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送