ココニイルコト

 

何で、自分はココにいるんだろう?

 


お馬が近いせいか、なんだか気が滅入ってしまって

セイは屯所を出てふらりと町へ出た。

向かう先はいつもの大木。

まわりには何にもないけど、それがかえって自分には良いらしい。

日も傾きかけた夕暮時。

セイが上にいることに気付かない人々は、何もないように通っていく。

ふと目に入ったのは、自分と同じくらいの女性が

若い女性らしいキレイな着物を着て、

嬉しそうに男性に手を引かれている姿だった。

(かわいいなー)

顔が自然にほころんだ。

しばらく、人間観察をしてみる。

平和でのどかな時間。

どれくらいそうしていたのか、

空はいつの間にか赤くなり始めている。

一日が終わろうとしている証しの夕暮は、少し感傷的にさせる。

自分にだって、キレイな着物を着て

好きな男と一緒に歩きたいという願望はある。

でも、武士としても認められたい。

武士にも女にもなりきれない自分。

「ホント、中途半端」

「なんだ、そんなこと考えてるやがるのか?」

「え?」

独り言のはずだったのに、

言葉を返されてセイは体をのけ反らせた。

「ふっ、ふくちょ〜??」

反らせた拍子に、不安定な木の枝から体がずり落ちた。

「バッ、バカヤロッ!総司〜っ」

土方が手を出すが間に合わず、セイの体は地面へまっさかさま。

体への衝撃を覚悟して両腕で頭を抱えた。




「土方さんが大人気なく木登りなんかして

神谷さんを驚かすからこんなことになるんですよー」

「ちっ。うるせぇなあ。

だいたいあんなとこでボサッとしてるコイツが悪いんだ」

「ん・・」

頭の上で人の話し声。

トクトクという心地好い音。

安心させるその音にすりよった。

「気付きましたか?」

「・・・・?」

ゆっくりと目を開くと、心配そうな二人の男。

二人はセイを心配そうに覗き込んでいた。

「・・・沖田先生。副長?」

「どこか痛いところとかはありませんか?」

「だ、だいじょうぶです」

起きあがろうとすると、沖田に制された。

「頭を打っていたら大変ですから、このまま屯所まで帰りますよ」

「でも・・・」

「いいから、寝てろ」

土方も言う。

「・・・はい」

セイはおとなしく目を閉じた。

 

「神谷、木から落ちたんだって?」

藤堂が部屋にやってきて言った。

もう広まってるのかと、セイは布団に入ったまま頭を抱えた。

「土方さんに落とされたって話も聞いたぜー」

永倉が藤堂の後ろからやってきた。

二人が興味津々にセイの枕元に座り込んだ。

「聞き捨てならねぇなぁ。新八、平助」

二人の後ろに鬼副長土方が威圧感たっぷりに立った。

「あ、いや、あー何だ、用事あったんだっけ」

「んじゃね、神谷」

二人はそそくさと場を去った。

「・・・驚かせて悪かったな」

今度は土方が枕元にどっかりと座り込んだ。

「?」

セイは首を傾げた。

「お前まだ若ぇし、悩むのはまだ早ぇ。・・・今を生きろ」

「・・・・」

セイがはっとして土方を見上げた。

土方は少し顔を赤くして場を去った。

 

『今を生きろ』

心の中で復唱した。

 

トクントクン

 

目を閉じると思い出す、直に感じた沖田の鼓動。

生きてる証。

ここにいること

それは、あの人と生きて行くため。

 

ココニイルコト。
たま〜に考えます。
2003.07.06 空子

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