紅葉の頃

「う〜ん」
縁側の柱に体を預けてセイは大きく溜め息を吐いた。

樹々の彩りは、鮮やかな緑から赤や黄色、茶色へとすっかり秋の暖色へ移り変わり、
季節の移り変わりを視覚からも感じるようになってきた今日。
庭一面に舞い落ちた、暖色の葉を眺めてもう一度深く息を漏らした。

最近のセイの日課には『庭の掃き掃除』も加えられている。
眺めるには趣のある庭だが、人の出入りもある庭先をそのままにしておくのは気も引けるというもので。
そうは言っても日に何度も時間を割く事はできないので一日に一度、庭に下り立つ事にしている。

カサリ

踏み締めると乾いた音がする。
草履の底から伝わる柔らかな感触。
とても暖かそうだ。
いつまでもその感触を楽しみたくなるのだけれど。

いけないいけない

セイは首を振ると箒で葉を一つ処に集めて行く。
みるみる内に庭の隅には大きな山ができていく。
日に日に集まる葉の量が増えているような気がするのは気のせいだろうか。
どこから吹き込んだのか、近隣には見られない種類の葉まである。

さて、どうしようかな。

この量を火にくべるのは心配でもある。

「あ、神谷。いいところにいた」
葉の山とにらめっこをしていると背後から明るい声がする。
振り返ると藤堂が至極近い距離でセイを見下ろしていた。
その両腕に大事そうに抱えられた籠が一つ。
「何ですか?」
セイが籠を指差すと、
「ああ、これ?」
ほら。と、セイからは見えない籠の中を見えるように隣りに屈みこんでセイの前に差し出した。
籠の中には今掘り出したばかりというように湿った土がついた、とても丸々としたさつまいも。

「…やきいも」

ポツリとセイが口にする。
日にくべればほくほくの甘い焼芋が出来上がるに違いない。
思うよりも早くおなかがぐうと鳴る。

「いいね〜」
ポンッと藤堂が手を打った。

そこで突然少し強い風が吹いた。

「あっ!」

思わず腕を広げるけれど、収まり切るはずもない小さな葉達はセイの腕と言わず身体全体をすり抜けて庭に舞い落ちた。

くすくす

その様子を眺めていた藤堂が笑い出す。
「笑い事ではありません!」
これだけを集めるのにどれだけの時間が掛かったか。
またやり直しかと思うと気も滅入るというもの。
「ごめんごめん」
ぷっくりと可愛らしく頬を膨らますセイに「ほら」と綺麗に紅く染まった紅葉の葉を差し出した。
「はい」
受け取ると、幼子の掌の様に可愛らしい紅葉をしばらく眺めて、思い立った様に懐紙を取り出し包むと懐にしまい込む。
「さ、早く片付けてしまおう」
「はい」
藤堂は人懐こい顔でにっこりと微笑むと、セイの手から熊手を受け取り手早く上手に山を築いて行く。

(不思議な人だな)

隊の中には多くはいないだろう空気を纏った人物だとセイは思う。
おおらかで和やかで。
少しだけ子供のようで、そうでもなくて。
色々な事が曖昧になる、はぐらかされるような不思議な空気。
長く一緒にいるはずなのに掴みきれない。
でも居心地が悪いわけではなく、その逆で…。

(本当はどんな人物なのだろうか)

葉を集めながら、しばらくその居心地の良い空間に身を置いていたいと思うセイだった。


拍手ありがとうございました。
入口画像とのコラボです。
最近、平ちゃんについて思うことを書いてみました。
楽しんでいただければ幸いです。
2008.09.30 空子

 

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