休 日

「ひっまだなぁ〜」

屯所内にひまつぶしに遊べる対象人物が皆出払っていたので、

永倉は一人でフラリと町へ出ていた。

昼間から酒をあおる気にもならず、目的もなく歩いている。

すれ違う女子を見たり、今流行の芝居の看板を見たり

それなりに楽しんでいた。

しばらく歩いていくと、

ふいに着物の裾を引かれた気がして後ろを振り返った。

視線を下に向けると一人の女の子が泣きそうな顔をして永倉を見上げている。

「なんだ?嬢ちゃん、迷子か?」

しゃがみ込んで視線を合わせると、

女の子はますます泣きそうな顔をした。

「父上か母上は一緒じゃないのか?」

「わからんようになってもた」

口に出して寂しくなったのか、ついに泣き出してしまった。

天下の往来で泣かれては永倉の体裁がよろしくない。

まわりに家族らしき人物も見当たらないので、

仕方なく抵抗する子供を抱き抱えると、

何ごともなかったかのように歩き始めた。

 



甘味処に連れていってやりしばらく一緒にいるたからか

子供は永倉に慣れたようで口数も増え、名前をサチと名乗った。

手招きすると、笑顔で駆けてくる。

「可愛らしいお子さんどすなあ。」

店主が子供の頭をなでた。

恥ずかしいのか永倉の背にぱっと隠れる。

その仕草が可愛らしくて永倉はそっと頭をなでた。

 

(父親とは、こういうものなのだろうか・・。)

 

永倉は心が暖まるのを感じた。

「そろそろ行くか?」

頷くサチの手を引き店を出た。




すれ違う町人たちに、サチに覚えがないか確かめて回るけれど、

家族が見つかる気配がない。

 


(・・・もしかして、捨て子?)

 


嫌な考えが頭をよぎる。

年の頃は、まだ五つくらいだろう。

可愛い盛りの娘だ。

視線を向けると無邪気な顔で笑いかけてきた。

不憫に思い抱き上げる。

「おひげいたい〜」

笑いながら永倉のあごのあたりに小さな手を添えた。

「いてっ。ひっぱるな」

キャッキャッと笑うサチを見て、

自分の子として育てるのも悪くないかもしれないと永倉は思った。




「サチっ!」

遠くから声がする。

「あっ、おかあちゃんっ!」

母の声に反応してサチが叫んだ。

「迷子を連れとるお武家様のこと聞きましてん」

母親に向かって必死に手を伸ばすサチを母親の腕に託した。

「なんとお礼申し上げれば良いものやら・・」

サチを抱き締め両親は頭を深々と下げた。

「いや、良かった」

母親の首にしがみつくサチを見て、安心もしたが

ちょっと寂しい気持ちになる。

「もうはぐれるんじゃないぞ、サチ」

頭をくしゃりとなでると、サチは永倉の袖を掴み、

「サチな、大きくなったらおいちゃんのお嫁さんになる」

聞いている両親は大慌てで頭を下げた。

「10年後に会いにきな」

頭をなでて名残惜しく手を離すと、

軽い足取りで屯所へと歩いて帰った。




「な〜んか、おもしろいことねぇかなあ?」

夕餉の席で万年刺激欠乏症気味の原田が言った。

「父親にでもなってみるか?結構いいもんかもしれないぜ」

永倉の言葉に一瞬まわりの箸が止まる。

「ぱ、ぱっつぁん??」

原田は頬張っていた米粒をまき散らして永倉を見た。

「もしや、どこぞの娘さんに・・?」

「気になりますねぇ」

セイと沖田が隣でこそこそと話をしているのを

気付いているのかいないのか、永倉は笑みを浮かべて黙々と膳を片付けていた。

 

飄々としている永倉先生。
隊士達を驚かせて楽しむことも忘れないんだろうなと思い
お話が浮かびました。

2003.10.13  空子

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