ナヤメルヒト


書いては捨て  書いては頭を抱え

土方は肌寒くなったこの日の夜を発句にあてていた。

 

( 進まねえ )

 

思うように進まない筆に少しいらついて頭を掻くと廊下に出る。

冷えた空気が心地好い。

(…歩くか)

庭に出る。

カンッカンッ

木がぶつかりあう乾いた音が聞こえる。

(なんだ?)

足音を忍ばせて近付くと小さな童のような後ろ姿。

(神谷?)

いつからいるのか、体からは湯気が立ち上ぼっている。

(成長したな)

隊士募集の頃を思い出す。

荒削りだった剣技は沖田の下についてから驚くほどに成長している。

随分頼りがいのある存在へと成長したことは認める。

童のような容姿に近頃は色香も加わったと隊士達の間で囁かれているのを知っていた。

土方もどう接して良いか考えあぐねているところだった。

以前、傾きかけた神谷の体を支えたことがある。

その時も感じたが今の姿もまだまだ成長期とは言え頼りない。

如身遷はどこまで神谷を蝕んでしまうのだろうか。

自分にも容姿からからかわれたことがあるので人事とは思えず不憫に思える。

ガツッ

ふいに木が大きな音をたてた。

音がした方を見るとしなった木で頭を打ったのか額を押さえて蹲っている。

「ぶっ」

「だれです?…ふくち…?いたっ!」

立ち上がり振り向いた拍子に後方にある枝に鼻の頭辺りをぶつけてまた蹲った。

「ぶっっ」

先程の凛とした様子とのあまりの差に笑いが止まらない。

腹を抱えて歩み寄る。

「そんなに笑わなくたって良いじゃないですか」

「見せてみろ」

笑いながら神谷の顔を覗き込む。

「・・・・・・」

立ち上がり土方を仰ぐ視線と合った。

「・・・・・・」

「・・・副長?」

先に口を開いたのは神谷で、その声に我に返る。

「・・・これ以上低くなったらどうする」

土方の手が神谷の鼻を摘んだ。

「いらいですっ」

抗議の為に振り上げた腕を土方になんなく制された。

神谷の様子に満足したのかいつものいたずらっ子のような不思議な笑み。

「お前ぇ・・・」

ぐっと顔を寄せられて神谷が一歩下がる。

「・・・な、なんですか?」

引きながらも強い瞳で土方を見上げる。

(なんでこんなに・・・)

「・・・いやいい。続けろ」

「はい」

くしゃりと頭を一撫ですると踵を返す。

懐にしまい込んでいた発句帳を取り出す。

しばらくすると、カツッカツッ規則正しい音が背後から聞こえてきた。

たまに頭をぶつけるのか違う音が混じるのに可笑しくて口元が緩む。

手のひらに視線を向ける。

触れた感触を思い出す。

「あいつ・・・」

(本当に男か?)

そんなことを考えてしまった土方は、「ありえねー」と首を振る。

そしてまた一つ、悩みの種が増えてしまったことに頭を抱えるのだった。

発句は今夜も進まない。

2006.10.22 空子

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