本当はずっと夢見てた。
両親がいて、兄とか妹がいたりして、神谷はんのように飛んだり跳ねたり・・・。
そんな世界。



願い事ひとつ


 


「あ〜」

雪弥が喉に手を当てて声を出した。

以前より声が低くなった。

身長もこの数か月で随分伸びてしまった。

そんな自分と比べてまだまだこれからの、新しく連れてこられた浪路を見ているとなんだか腹立たしくなってくる。



(こんなんやとなあ・・・)


いつか放られる。



考えると何もする気も起きなくなってしまった。

深い溜め息と共に縁側にゴロリと寝転がると、陽の光の眩しさに手のひらで庇を作る。

今日は七夕。

庭にはどこから持ってきたのか笹の葉がたくさんの大きな竹が立て掛けられていた。

カサリ、と願い事を書くように渡された紙に手に当たった。


(叶うわけないしなぁ・・・)



つまみ上げてまた一つ溜め息。

「・・雪弥はん?」

声がした方に視線を向けると不思議そうに見下ろす浪路の姿。

「なんや浪路か」

短冊を見られないようにコッソリ懐にしまい込んだ。

「へえ。だんさんがおつかい言うて」

財布を差し出した。

「なんや一人で行きぃ」

「やって・・」

浪路がオロオロとして俯いた。

浪路はまだ一人でおつかいに行ったことがないのだ。

腹立たしいくらいに大事に育てられている。

「まあええわ」

あまり乗り気にはなれないけれど、こうしてゴロゴロしているよりは気晴らしになるかもしれない。

大きく息を吐くと勢いに任せて立ち上がった。


 


「まあ、かわいらしい弟はんやねえ」

店の人に声を掛けられて浪路は雪弥の後ろに隠れてしまう。

「愛想のうて・・・」

雪弥が艶やかに微笑むと店の女性の頬が赤らんだ。

「ほな」

頭を下げると店を後にした。

「浪路、そないなことでどうする。一に愛想、二に愛想やで」

「・・・へぇ」

トボトボと後ろを付いて歩く波路にまた少し苛つきを感じる。

そんな時だった。

「雨?」

ポツリポツリと降ってきたと思うと突然雨脚が強くなった。

「走れるか?」

波路がうなずくのを見てとり、少し疲れて足は思うように動かなかったけど、

近くに雨宿りできそうな木を見つけると二人は走り出した。


「・・・はよ止まんかなぁ」



大きな木の下から空を見上げるけど、雲に厚く覆われた空はまだ晴れそうになかった。

それどころか遠くで雷の音までする。

「・・夏が近いんやなあ。浪路?」

先程から一言も発しない浪路に雪弥の視線が下がった。

浪路の顔色が悪い。

「なんや、怖いんか?」

コクコクと頷くと着物の袖を握り込む。

「・・・すぐやむやろ。見てみい。あっこは明るいやろ?」

「うん・・・」

空に雷が走るのを見て波路がしゃがみ込んでしまった。



その様子はいつかの自分を見ているようで・・・。



隣に腰を下ろすと空を見上げた。

回りには人の姿はなくただ二人きり。

浪路の様子を見ていると幼かった頃を思い出してしまう。

迎えに来てもらいたくてもそんなあてはなく、ただただ雨がやむのを待っていた。

そっと浪路の頭へと手を伸ばしかけた時だった。


「あっ」


突然浪路が声を上げた。

「な、なん?」

雪弥が驚いて手を引くと、浪路が駆け出していた。

「・・・じじい?」

前方に見慣れた初老の男性の姿。

フラリと少しよろつきながら浪路を抱き上げていた。

その光景はまるで子供を迎えにきた家族のようで。


(・・うちが入る隙間あらへんやん)



立ちつくし、しばらくその様子を眺めていた。

「こんなに濡れてもて風邪でもひいたらどないすんねん」

パッパッと肩を払われる感触に顔を上げると、今度は頭を手ぬぐいで拭われた。

「何すんねんじじいっ」

「ほんまに口の悪い子ぉやなぁ」

俯くと、浪路も雪弥の着物の雫を払ってくれていた。

 

「・・・・なにすんねん。・・・あ」


着物の合わせからハラリと1枚の短冊。

拾いあげてしばらく濡れてしまった短冊を見る。

「・・・どないしたん?」

見上げる浪路の頭を小さく撫でた。

「・・・・なんもないよ」

 



家族って、こういうものなのかもしれない・・・。




そんな間も悪態に構わず無言で拭ってくれる手が暖かくて、しばらくおとなしくされるがままになっていた。

 

 

七夕☆
本当は、セイちゃん達で可愛らしく書きたかったのですが・・・・。
今年の七夕はお初の雪弥くんで^^
せっかくの七夕なのに、ちょっと暗くてスミマセン^^;;;

2005.07.07 空子

 

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