お月見

 

「・・・」

セイは居心地悪い風で道を歩いていた。

前方には土方。

たまたま時間があり、庭の木々に水やりをしていたところへ

土方から声がかかり共をすることになったのだった。

外を歩く副長からは、いつも身を斬られそうな鋭利な刃物のような空気が漂う。

 

ちょっと怖い。

 

「涼しくなってきましたね」

「そうだな」

「・・・どこへ行かれるんですか?」

「ついてきたらわかる」

「・・・・はぁ」

セイは溜め息をついた。

土方にはとりつく島もない。

「神谷っ、何してる。こっちだ」

不機嫌そうな土方の叫び声。

「はいはいはいっ」

(聞こえてますよっ)

ムスッと唇を尖らせてセイは声のする方を見た。

いつの間にか土方は道の端の小さな路地へと入る入り口に立っていた。

(・・・どこにいくんだろう?)

首を傾げながらセイは駆け寄った。

ずんずんと進んでいく土方に離されまいと後を追うと、

一件の店の前で止まることになった。

中からは甘い、甘い和菓子の香り。

セイは土方を見る。

土方は小さく息を吐いて店へと入っていった。

「・・・・?」

土方には似つかわしくない場所。

「わぁ・・・」

(かわいいv)

色とりどりの可愛らしい形の和菓子がたくさん並んでいる。

しばらく店内をキョロキョロしていると、

セイは一つの和菓子に釘付けになってしまった。

物欲しそうに見ていたのか、店の女将にクスリと笑われてしまった。

肩をすくめてセイも笑う。

甘い物が大好きなセイである。

その辺りは普通の女の子で、ちょっと幸せな気分。

「神谷、行くぞー」

「あ、はいっ」

名残惜しげにその場を離れてセイは土方の背を追った。

土方の手には大きな包み。

「副長っ、お持ちしますっっ」

気づかなかったことに恥じ入りながらセイは言った。

「いや、いい」

あっさりと却下される。

セイは溜め息をついて後に従った。

 

 

 

「・・・・」

そのまましばらく一定の距離を保って無言で歩く。

もうすぐ屯所につく。

セイは何で自分がここにいるのかわからなくなった。

「・・・私、お供の必要あったのでしょうか?」

荷物持ちでもなく、道案内役でもなく・・・。

「・・・俺一人であんな処に行けるかよ」

土方がポソリと呟いた。

「・・・え?」

 

 

「あっ、ひじかたさーん」

屯所の門のところでこちらに大きく手を振る藤堂の姿があった。

「あ、帰ってきたv」

藤堂の後ろから沖田がひょっこりと顔を出す。

「おらよ」

ずっしりとした包みを沖田に乱暴に手渡した。

「ちゃんと買ってきてくださったんですね♪」

「フンッ。勇さんも食いてぇってんなら仕方ねぇだろ」

「??」

セイにはわけがわからない。

「土方さんね、じゃんけんに負けた罰に買い出しだったんですよ」

「そうそう、今日は十五夜でしょ。みんなでお月見しようってなったんだ」

藤堂と沖田が顔を見合わせた。

「一人じゃ行けねぇっていうから、神谷を連れていけって言ってみたんだよ」

原田が後ろから顔を出す。

「何で私?」

「ガキ連れてたら、恥ずかしくもないだろ?」

永倉が頷きながら言った。

「なっ、ひどっ!」

セイは真っ赤になって抗議した。

「おい、神谷ちょっと来い」

さっさと門をくぐっていた土方に呼ばれて

セイは慌てて駆け寄った。

「はい」

土方を見上げる。

すると、土方は後ろからぬっと手を差し出した。

「?」

セイは土方の手と顔を交互に見やる。

意味がわからない。

「手だせ」

セイは言われて両手を差し出した。

土方が手のひらを開くと、セイの手に先ほど見入っていた和菓子が乗せられた。

「これ・・・」

「付き合わせて悪かったな。礼だ」

土方はプイッと踵を返して屯所内へと入っていった。

「あ、ありがとうございます」

土方の背中に頭を下げた。

「いい男ですよね。土方さんv」

「沖田先生」

いつの間にいたのか、後ろから沖田の声。

「そうですね」

セイもクスリと笑った。

不器用だけど、まわりをちゃんと見てる人。

外からは誤解されることもあるけれど、隊士の人望は厚い。

「さぁ、今日はお月見ですよー。

神谷さんも賄い方の手伝いお願いしますね♪」

「はい♪」

 

 

その晩、中秋の名月を愛でながら、

屯所内では無礼講の酒と、賄い方の豪勢なの料理と

土方・セイが購入してきた和菓子が振る舞われて

夜通し大騒ぎだったと言う。

 

 

通勤アクセス上歩くことが多い私はよく月を見ます。
おっきかったり、あかかったり、傘ができてたり・・・。
毎日違って楽しいです。

2003.10.05 空子

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