「きれい・・・」

いくらか暖かくなり始め、天気も良いので巡察までのひと時を

神谷清三郎こと富永セイは一人町を散歩にでていた。

前に巡察で近くを通った時は三分咲きだったその場所の桜は、今は見事に満開である。

いつもなら時間があれば沖田を誘って葛きりでもというところなのだが、

今日はそういう気にならず、ここへ来たのだった。

少し風もあり、桃色の可愛らしい花弁がひらひらと舞い落ちる。

 

花は桜木、人は武士

 

「兄上…」

自分を見下ろす桜に兄を思い浮かべた。


桜のように逝ったんだな…。


いつだったか斉藤がいった言葉が桜に兄を思わせた。

普段は忙しい隊務や気心の知れた仲間たちといるせいか思い出すことは少なくなっているのだけれど、

この時期になると、亡くなった父や兄を思いだし感傷的になってしまう。

ふいに目頭が熱くなる。

下を向きそうになったその時だった。

「だ〜れだ♪」

顔を持ち上げるように背後から目隠しされる。

(沖田先生…?)

優しい声音の主に思い当たる。

大きな温かい手のひら。

「あれ?神谷さん??」

自分の行動に反撃されると踏んでいた沖田は手を外しセイの正面に回る。

セイは離れる温もりを追うように目を開いた。

沖田がセイの頭上から拳を下げる動作が目に入る。

「どうぞ♪」

手を差し出されて思わず両手を開いて待ち受ける。


ハラリ

 

手には一枚の桃色の花びら。

「きれいですねぇ」

沖田はニッコリ微笑んで桜を見上げた。

「はい」

セイもつられて見上げる。首が痛いほどに高い桜の樹。

「神谷さんっ」

「はい?」

「桜と言えば・・・」

「?」

「桜もちを食べに行きましょう」

「はい?」

セイはあんぐり口を開く。

(この人ってばっ!)

「消えてしまいそうだったから・・・」

「え?」

沖田の言葉があまりにも小さな呟きだったので聞き返す。

「なんでもないですよー。ホラッ神谷さん」

手を差し出される。

「おき…」

とまどっていると、

「あなた、大人未満の子供ですからねぇ。迷子になったら困りますし☆」

「な〜っ」

セイは真っ赤になって両腕をブンブン振り回す。

「あはは〜。置いていきますよー」

「待ってくださいっ」

セイは沖田の背中を追いかけながら、先程までの暗い気持ちが晴れていることに気がついた。

沖田が先で立ち止まって手の平をヒラヒラさせている。

笑顔で駆け寄って手をとると、

「早く行かないと、売り切れちゃいますよ。行きますよ〜」

思い切り風を切って走る。

(ありがとうございます、沖田先生)

背中に向かって微笑んだ。

 

 

「おっ?神谷じゃねぇか」

「どうしたのー?二人でそんなに急いで」

「まーた甘味か?」

原田・藤堂・永倉の三人だった。

「俺たちも付き合うぜ〜。」

5人で並んで歩く。

なんとも言えない温かなその空間に、なんだかこそばゆく感じてセイは顔をほころばせた。

「神谷、顔がにやけてる。そんなにおいしいところなの?」

藤堂がセイを覗きこむ。

「いつまでも子供だなあ」

永倉がセイの頭をクシャリとなでる。

えへへとセイは空を見上げた。

父上、母上、兄上、セイを見守っていてくださいね!


はいっ、初めて書いたSSです。
少しは女の子っぽいお話も^^
お兄ちゃんたちに囲まれる末っ子の図書きたかったのです。

2003.06.15 空子

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