咲桜〜さくら〜

慶応四年、江戸。

気分もよかったので、

総司はセイに手伝ってもらって縁側に二人で座っていた。

セイは、どこか寂しげに庭に咲く桜を見上げている。

目が少し赤い。

あの懐かしい京都の頃から、

私は何度あなたを泣かせてしまったんでしょうね・・。

総司は小さく息をはいた。

「幾度、桜は咲くのでしょうね」

セイが小さくつぶやいた。

「幾度咲くのか、来年も、再来年も、二人で数えましょう」

総司はセイを見た。

セイは驚いた顔をして総司に目を向け、

視線を下に移した。

肩が震えている。

ぽんぽんとあやすように肩をたたくと、

「・・・はい」

小さく答えが帰ってきた。

「さて、おなかすいちゃいました。今日の夕飯はなんですか♪」

総司の言葉にセイも笑った。

 

コホンッ

 

咳をする度にセイは

家のどこにいても総司の元へ走り寄ってくる。

「寝てなくちゃだめですよ!だいじょうぶですか?」

優しい手が背中をなでてくれる。

気持ち良くて、もう一度蒲団に入り目を閉じた。

 

「逝かないでください、おきたセンセ・・」

まどろみの中、セイの声を聞いた気がした。

 

 

真夜中、外の少し強い風に総司は目を覚ましてしまった。

ほんわかと、

左に暖かい気配を感じて視線をやると

そこには掛け蒲団もなくセイが眠っていた。

顔にはうっすらと涙の後。

総司はまどろみの中で聞いた声が夢ではないことを今悟った。

そっと頬をなでると、

起きる気配もなくセイは心地好いのか

うっすらと笑みを浮かべた。

セイを起こさないように蒲団から抜け出して、

一人縁側に腰掛ける。

庭には満開の、夜空を覆い隠すような見事な桜。

少し強い風になすすべめなく舞い落ちる花びらに、

もう長くはない自分の命が重ねられて、少し涙がこぼれた。

「沖田先生、お体に障りますよ」

慌てたセイがてっとりばやく掛け布団をかけた。

「起こしてしまいましたか」

セイはフルフルと首を振った。

「・・キレイですよね」

セイが無言で総司の背に抱き付いた。

「いやですねぇ。なに泣いてるんですか、神谷さん・・」

セイはただ涙をながすのみ。

「しかたないなあ、胸を貸しますから、

泣ききってしまいなさい」

胸元にしがみついて泣くセイの背中をあやすようになでた。

こうして抱き締めたのは何度目だろう?

慰めながら、自分も癒されていた気がする。

「神谷さん、私は精一杯生きることに決めました」

 

 

あなたといっしょに、あなたのそばで

 

 

セイは小さくうなずいた。

「キレイですよねぇ」

桜に目を移す。

「神谷さん?」

視線を戻すと、セイは泣き疲れたのか眠っていた。

掛け蒲団をかぶり直し、総司はなんだか幸せな気分でいた。

 

 

「愛してますよ。おセイさん」

そばにいてください。

伝えられない言葉だけど、口に出さずにはいられなかった。

 

春も夏も秋も冬も ずっとそばにいて

いくつ桜咲くのでしょう

ずっと二人数えましょう

僕のそばで泣き笑う

あなたが眠るまで

聞けば聞く程、総ちゃんセイちゃんの歌に聞こえる曲の引用です
聞いていて、このお話浮かびました・・・
2003.06.15 空子
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