精神安定剤

「あにうえぇ〜♪」

ケラケラと笑いながらぴとっとくっついてくるセイに、

ふだんならドッキュンものだが、この時ばかりは辟易していた。

はぁぁぁ・・

セイは見掛けによらず大トラで、

初めて飲みにいった時が忍ぶ恋の発端になったくらいだから

斉藤にとってはドッキュンものだった。

その後数回飲んだが、いつもからまれて大変なのである。

「今度は何があったんだ、清三郎」

「あ〜、その目は私のことあきれてますね〜」

いいんだーとすねてそっぽを向き、徳利を傾ける。

「よさんか」

とりあげて上にあげた。

セイはとりあげられた徳利を取り戻そうと何度か両手を延ばすが届かず、あきらめて頭を垂れた。

「だって・・沖田先生たら〜」

ポロポロと涙があふれてくる。

「今度は何があったんだ?」

「もおいいんれすぅ、あにうぇぇ」

しばらくするとそのままおとなしくなったので顔を覗き込むと、

斉藤の袖の裾をつかんで座ったまま意識はとんでいるらしい。

「・・泣くくらいつらいならやめればいいのになぁ。俺は泣かさんぞ」

本格的に寝に入ったセイを抱き締めて、そっとつぶやいた。

本人が正気のときには決して言えない言葉。

無邪気に眠る寝顔をみて、また一つためいき。

汗ではりついた前髪をかきあげた。

笑い上戸に泣き上戸、暴れた上に眠りこけてしまい、翌日には覚えていないのだから質が悪い。

(こういう時しか告白もできん俺も情けないな)

幸い明日は二人揃って非番である。

このまま眠りこけて、朝一番のセイの驚き顔と、

朝帰りして驚くだろう沖田の顔を想像しながらセイを横たえ自分も横になった。

セイの規則正しい呼吸が斉藤を眠りへと誘った。

 

 

セイは肌寒くて、近くに感じた温もりにすりよってから目を開けた。

「?!」

その温もりが人間だと気付くまでに数分を要したが、

頭が覚せいしたら、その人物が誰かを察して大パニックである。

(なっ、なっ、なんで斉藤先生??)

斉藤は起きる気配もなく気持ち良さそうに眠っている。

「・・お、おはよぅございます」

しばらく眺めていると斉藤が目を開いたので声を掛けた。

「・・おはよう。気分はどうだ?」

「・・もしかして、また何か粗相を?」

「・・思い出さないほうが身のためだ。少しがまんしろ」

「わっ」

斉藤は袖でセイの目許をごしごしと拭った

力任せに拭われたので少し痛い。

「顔洗ってこい」

「は、はいっ」

セイは手ぬぐいをひっつかむとパタパタと部屋を出ていった。

 

 

帰り道、

「斉藤先生と飲みに出かけた次の日は、とても状態が安定するんです」

セイが笑顔で話した。

「そうなのか?」

「はい♪またよろしくおねがいします、兄上」

深々と頭を下げられ斉藤は大きく溜め息をついた。

でも、もしかしたら、これは自分にだけ与えられた特権なのかもしれない。

精神安定剤の位置にとりあえずは満足な斉藤先生だったとか。

 

忍ぶ恋とは、むずかしい。
主人公にはずっと無邪気に居て欲しいと言う願望。

2003.06.20 空子

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