幸せの表現

 

「おゆうちゃん、明日お祭りあるんだって。一緒に行こうよ」

昨夜眠る前、隣に横たわる悠に藤堂は子供のように嬉しそうに声を掛けた。

「うん」

答えた悠に、藤堂は嬉しそうにその体を抱き込んだ。

 

 

「そんなに見られたら穴が開くやないの」

賑わう人波の中、藤堂はことあるごとに悠を見ていた。

「だって、ほんとに可愛いんだもん」

持っていたうちわでパシリと藤堂の頭をはたく。

どうも表現が真っ直ぐで落ち着かない。

自分への気持ちも真っ直ぐで、悠は戸惑いがちだった。

「あほ」

恥ずかしくなってプイッとそっぽを向いた。

「ほら、旅芸人だ。行こ」

藤堂は悠の手を引いて早足で歩き出した。

手の温もりを感じて赤くなった。

 

 

一休みしようと近くの店へと入った。

丁度向かい合う形に座ったので、悠は気恥ずかしくて瞳を伏せた。

「楽しいね」

藤堂は嬉しそうに葛きりを待っている。

顔を上げると、いやでも目に入る藤堂の額の傷。

藤堂のおかげでだいぶ落ち着いてはきたけれど、完全には忘れられない大事件。

体が震えるのを感じた。

 

その時だった。

いつの間にかきつく握り締めていた手の上に、

温かい藤堂の手が重ねられた。

見上げると、苦笑する彼の顔。

悠はまた顔を伏せた。

 

 

店を出ると、辺りは暗くなり始めていて、

帰路へとつく人が多く見受けられた。

「帰ろっか」

藤堂が手を差し出した。

その脇をするりと通り抜ける。

「藤堂はん、こっち」

悠は河原へと藤堂を誘った。

「ホタル?」

藤堂は、ちらほらと現れた蛍に手を延ばした。

「私の気にいりの場所」

言いながら蛍を一匹手の平にとまらせた。

「そっかー。ありがとう。教えてくれて」

藤堂は破顔して蛍を両の手の平でつかまえた。

悠は藤堂の笑顔が好きだった。

薄暗闇の中でもわかる、彼の笑顔。

「藤堂はん、今日もゆっくりできる・・?」

めずらいし誘いに、少し驚いて悠を見る。

「なんやの?・・・おかしい?」

「ううん。一緒にいたいと思ってたんだ」

藤堂は、悠をつかまえて抱き締めた。

 

 

 

眠りについた藤堂の隣で、その子供のような寝顔を見るのも好きだった。

近くにいるだけで幸せ。

上手に気持ちを表せない自分だけれど、

反対のことばかり言ってしまう自分だけれど、

いつも幸せを感じてる。

でも、いやでも目に入る痛々しい額の傷。

新選組隊士として隊に戻る度に彼の身を案じて不安な日々を過ごす。

 

 

耐えられない・・・。

 

 

弱い自分でごめんなさい。

悠は、涙を流し額の傷に口付けた。

 

お悠ちゃんと平ちゃん
もっと二人のお話みたかったなぁなんて考えてたのがきっかけで、話できました。
お悠ちゃん、ホントは離れたくなかったんだろうなとか思ってしまいます。

2003.08.28 空子

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