新緑の中

冬の寒さは少しずつ遠のいて、気がつけば少し動くだけでじんわりと汗ばむこの季節。
澄んだ青い空と、時折頬を撫でる穏やかな風の心地良さに誘われて、セイは庭先に下り立った。
男所帯の中にあっても幾分か手入れの行き届いている庭には春先には可愛らしい花が咲いていたが、
日を追うごとに緑の色濃く生命の力強さを感じさせる場所に変わっていった。
身がピリリと引き締められるような、まだ冷たく感じる水を汲み上げると、庭木に水をまこうと歩みを進める。

(あれ?)

人の気配にふと足を止める。
視線を向けると、鮮やかな緑に囲まれたその場所に一人の人物。

(副長?)

時折眉間に皺を寄せつつ、土方が手元の筆を滑らせている。
俳句でも詠んでいるのかもしれない。
邪魔をしては悪いと場を去ろうとした時だった。

「ぶっ」

堪え切れない笑いを一気に吹き出したような豪快な土方の笑い声。
今までに見たことないその様子に、セイは思わず木陰に身を寄せて盗み見る。

(あんな風に笑うんだ・・・)

土方の視線の先を追うと、行き当たった先は近藤局長で。

(ああ、そうか)

副長は、いつも眉間に縦じわを寄せていて、どれだけ近付いても常に幾重にも重なった壁があるのを感じていた。
土方が思考を巡らせた分だけ厚くなるその壁。
自分はまだその壁を乗り越えられない。
普段は人の気配に過敏な土方が近い場所にいる自分に気付かずに笑い合える相手。
少し悔しくもあるけれど、そういう空間があることに安堵して、セイはその場を後にしたのだった。


2008 5月 入り口作品との連携作品を書いてみました。
初の試みでした。
展示方法を悩みましたが、こちらに^^
楽しんでいただければ幸いです。

2008.05.08(08.06.14改稿) 空子

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