ソシテ歩イテユク

 

一番隊に配属されて少しずつ隊務にも慣れてきた夕暮時の巡察時。

屯所へと戻ろうとしていた頃だった。

物陰からこちらを伺い見る一人の浪士。

声を掛けようとしたら、その浪士は慌てた様子で踵を返した。

(思いっきり怪しい!)

待て!」

「神谷さん!深追いはいけませんっ」

沖田の制止も聞かずにセイが走りだす。

 

 

(おっかしいな〜)

辺りが暗くなり始めたからか見失ってしまった。

しばらく歩いていると突然ポッカリと不自然に拓けた空間に出た。

「あ・・・」

そこはしばらく足を運べなかった場所。

日々の忙しさから忘れかけていたその場所は・・・。

「ぁ・・・」

体の底から震えがくるのを感じる。

足に力が入らない。


「・・・あにうえ・・父上・・」



ここにはかつて暮らした家があった場所。

もうだいぶ経つというのに新しく家も建たず、未だ炭となった木材の一部も落ちている。

幸福だった時間が甦る。




「わたし・・・」



(一人ぼっちになっちゃったんだ・・)


突然の喪失感に体中の力が抜けていく。



「単独行動は駄目だと言っておいたでしょう?」



崩れ落ちそうになった体を支えてくれたのは沖田だった。

「沖田先生・・・わたし」

言葉と共にポロリと一滴。

「・・・気付かなかったことにしておきますから」

背後からそっと目隠しするように添えられた大きな手。

「・・・申し訳ありません。いま、だけ・・・」

泣ききったら、『神谷清三郎』に戻りますから・・・。

意を汲んでくれたのか沖田は何も言わずにそうしていてくれた。

 


「・・・先生、もう大丈夫です」

しばらく後、落ち着いたところでセイが口を開いた。

沖田の方に向き直そうとした時だった。


「総司じゃねえか」




呑気な声。

目を凝らすとその声の主は原田だった。

「なんだ、神谷を泣かしてんのか?」

原田がセイの顔を覗き込む。

「ち、違いますよ〜」

からかわれて沖田が困ったように言った。

「はは、冗談だけどよ。せっかく一番隊の巡察路から外してもらったのに意味ねぇじゃねぇか」

「え?」

原田の言葉にセイが反応する。

「わ〜っ、わ〜っ!な、何言ってるんですか原田さ〜ん」

慌てる沖田。

「・・・沖田先生」

「いえ。ほら、ね?色々と支障をきたしても困りますし」



(気遣ってくれていたの?)



「原田さん、巡察の途中でしょう?」

「慌てんなって。じゃな神谷♪」

すれ違いざまに力強く背中を叩かれる。

「あ、はい。お気をつけて」

二人で原田達を見送った。

 


「・・・沖田先生。ありがとうございます」

深々と頭を下げる。

「いやですよう、改まって」

「神谷清三郎、頑張ります!」

「はい。がんばって」

ポンッと頭に手を置かれる。

「はい」

「では帰りましょうか」

「はい!」



(父上、兄上。また来ますね)


一つ手を合わせると、先を行く沖田を追いかけた。

 

本編では描かれていないけれど、富永邸はどうなっているんだろう・・・?
誰かが悲しませまいとその場に近づかないような策をたてたんじゃないかなぁとか
勝手に考えてしまいました^^;
つらいことを乗り越えて、それでも歩いて行くんだと・・・。

2005.05.11 空子

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