ススミダス

「私、とっても不思議なんですけど・・・」

白い息を吐きかじかむ手をこすり合わせながらセイが隣を歩く沖田を見上げて言った。

「突然どうしたんです?」

「原田さんですよ。ご自宅に戻らなくても良いのでしょうか」

せっかく早く隊務が終わったというのに。

「どうしてです?」

「だって・・・」

(おまささん、待ってるんじゃないのかな)

心配しながら原田の帰りを待ってるに違いない。

夫婦になって初めての年越しのはず。

それなのに隊務から宴会へとなだれ込もうとしている。

「良いんじゃないですか?みなご馳走になるんだと楽しそうですし」

沖田の視線の先には隊士数人に囲まれている原田の姿。

楽しそうな原田の笑顔にセイは顔をしかめた。

「総司、神谷〜!置いてくぞ〜!!」

先頭を歩く原田に急かされた。

「神谷さんはどうします?」

「お共致しますっ」

羽目を外さないように監視役!

鼻息荒く返事した。

「はい、決まり〜。急ぎましょう♪」

グイッと手を引かれてセイはふいをつかれて真っ赤になった。

 

 

「飲んでるか?かみや〜」

すでに出来上がっている原田が絡む。

「飲み過ぎですよ。原田さん」

酒を自粛しているセイは最近上手に飲むことを覚えていた。

「自力でご自宅に帰れなくなっても知りませんよ!」

触れようとしてくる原田の手を避けながらセイが言う。

「しんぱいはむようらって〜」

呂律もはっきりしない口調。

(男って奴はっ)

呆れていると原田がセイの膝に倒れ込んできた。

「ちょっ、原田先生しっかりしてくださいよ!」

頼りの沖田は中座してここにはいない。

まわりに助けを求めようと視線を向けるけれど、皆出来上がっていてこちらに気付きもしない。

どうすることもできずにセイはそのまま膝を貸す形となってしまった。





「あれ原田さん寝ちゃったんですか?」

頭上からの呑気な声にセイが視線を上げた。

「えぇ。どうしたものかと・・・」

気持ち良さそうに眠る原田を叩き起こすのも気の毒で動けずにいた。

「・・どうしたんですか?」小さく笑った沖田にセイが問い掛けた。

「前に原田さんがおまささんに膝枕してもらったっていう話を聞いたんですよ」

「へぇ・・・」

(そういう話するんだ)

意外そうにセイは視線を原田に向けた。

「それがとっても気持ち良かったらしくて。神谷さんに重ねてるんですかねえ」

「ならなおさら早く帰れば良いじゃないですかー」

「・・・ん?かみや・・?」

原田がうっすらと目を開いた。

「あ、起きました?」

セイと沖田が顔を覗き込むと、

 

「どうりで・・・かたい・・」

 

「なっっ!」



またパタリと再び寝入ってしまった原田にセイは絶句。

沖田は大笑い。

「私は女子じゃありませんから、ねっ!」

勢いをつけて原田を転がした。

「・・・って〜」

勢い良く柱に後頭部を打ち付けて原田はのっそりと体を起こした。

「私、もう戻りますね。原田先生も早くご自宅に戻られたほうが良いと思いますよ」

言い終えると、しびれた足をかばいながら席を立つ。

「おぉ〜」

原田にのんきにヒラヒラと手を振られて一つ溜め息。

そのまま店を後にした。


 

「あっ」

店を出て少しすると、痺れのひかない足に力が入らなくペタンと座り込んでしまった。

 

はあぁぁぁぁぁ

 

大きく溜め息。

 

(確かにさ、女子は捨てたはずだけどさ)


人に言われるとさすがに少しショックで。



はあぁぁ〜



もう一つ溜め息。



「そんなところに座り込んでいたら風邪ひきますよ」


背後からの声に顔だけ向けた。

「沖田先生」

立とうとするけれど力が入らない。

「はい。どうぞ」

沖田が前にしゃがみこんだ。

「え、いいですよ。歩けます・・い〜っ!」

あわてて首を振るセイの足を沖田が軽く掴んだ。

しびれた足が痛くてなんとも言えず沖田の肩に手をつく。

「ははは。ほら。どうぞ」

「・・はい」

おとなしく沖田の背に体を預けた。



「う〜ん、確かに神谷さんはもう少し太らないと・・・」



ポソリとつぶやいた沖田の言葉をセイは聞き逃さなかった。

「おりますーっ!下ろしてくださいっ!!」

背中で大暴れ。


「あぶないから暴れないでくださいよ〜っ」

暴れるセイに沖田が体勢を崩しかけた。

「わっ」

思わず沖田にしがみつく。

 

ゴーン・・・・

 

ゴーン・・・・

 

「あ、除夜の鐘」

体制を整えた沖田が足を止めた。

「え?・・・あ」

澄んだ空気に乗って聞こえる鐘の音。

「本当だ」

耳を澄ます。

(もう年越しか・・・・)

 

クスリ

 

沖田の忍び笑いにセイが我に返る。

「あ、もう大丈夫ですから降ります。いーったっ」

セイが沖田の首から腕を離した時、沖田がまたもやむんずとセイの足を掴んだ。

「あはは。ほら。おとなしくおぶわれていてくださいね」

「・・・・すみません」

笑いをこらえる沖田の肩が揺れる。

「な、なんですかっ」

「いえ。今、何度目の鐘ですかねぇ」

「どうなんでしょう・・・」

空を見上げる。

ゴーン  ゴーンと重みのある音が心地よい。

昨年起きた様々な出来事を思い出す。

いろいろなことが起きた。

身を裂かれるような思いもした。

それでも・・・・・・、

 

(・・・沖田先生がご無事で良かった。)

 

こうして近くで生命を感じられる。

 

鐘が鳴り終えて、静まりかえっていた町がにぎやかになった。

「神谷さん、あけましておめでとうございます」

「・・・あ、はい。あけましておめでとうございます」

「今年も笑って過ごしましょうね」

「・・・はい」

少しでも多く笑顔を。

悲しいことがあっても乗り越えられるほどに強くなれるように。

隣で笑っていられるように。

 

「このままお参り行っちゃいましょうか」

「はい」

きっと新選組の面々もお参りに訪れているだろう。

無性に皆の顔が見たかった。

 

「沖田先生。今年も、よろしくおねがいします」

「ええ。もちろん、こちらこそよろしくおねがいします♪」

受け入れられて嬉しい。

(強くなろう)

今よりも少しでも強く。


「神谷さん?」

おとなしくなったセイに沖田が声を掛ける。

「いえ、なんでもないんです」

(強くなろう)

一歩でも前へ。


気持ちを新たにセイは心に誓うのだった。

 

 

お年賀フリー作品として置いた作品を改めて編集致しました。
「前へ 前へ」
毎年の私の目標です(*^∇^*)

2005.12.26 空子
(2006.03.22改稿)

 





 

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