たとえばこんな夏の日


 

志津は軽い足取りで道を歩いていた。

ちょうど木陰になるところに腰掛けを見つけて腰を下ろす。


うふふ♪


にんまりと笑うと、おつかいで購入したお茶菓子を隣に置いて

店の女将がお駄賃と言ってこっそりくれたお菓子の包みをそっと開いた。

「おいしそ〜♪」

志津は明里が引き上げてから新しい妓の元で元気に働いている。

変わったことと言えば、あの頃同じように可愛がられていた女の子が数人

お客をとるようになって大人びてきた事だろうか。

自分はといえば背は伸びたけれど皆からは相変わらずの子供扱いだ。



 

恋でもしてみる?




周りはふざけてそう言うけれど、以前大好きだった新選組の神谷のお兄ちゃんは

大好きな明里のお相手なので諦めた。

今はそういった特別な相手はいない。

「あ〜めんどい」

こういうお菓子をお駄賃にもらえるなら、まだまだこのままでも良いような気さえする。

おいしそうなお菓子を堪能しようと大きく口を開いたときだった。




ドンッ




「あっ!何すんねん・・・あ〜大事なお菓子が〜っ」

突然の出来事に呆然として足下に落ちた菓子を見つめた。

「って〜。こっちが言いたいわ」

気の強そうな声がして少し怯みながらも声の主をにらみつけた。

 

「「あ〜っっ!!」」



お互いを指差し合って声を張り上げる。

「あんたっ。明里姐さんとこのっ!」

大きくなっているけれど、変わらない顔立ち。間違いない。

何度か泣かされたことを覚えてる。

大好きな明里と一緒に暮らしている生意気な、確か正坊!

(・・・腹っ立つわ〜)

向こうも同じ気持ちなのか着物の土埃を払いながらこちらを見据えて立ち上がった。

顔を突き付けてにらみ合い、しばらくした時だった。


ぐ〜


正一の腹が鳴った。

「・・・ぶっ」

みるみる赤くなる正一に怒りも萎えてしまい志津は腹を抱えて大笑いした。

「笑いなや」

正一はバツが悪そうな顔をすると小さく呟いた。

「あはは。ええやん。許したるし」

一つ溜め息をついてポンポンと空いている隣を叩いた。

「?」

首を傾げた正一に、

「ようさん貰てん。一緒に食べよ」

「・・・・・ええの?」

「いらんかったらええけど?」

並んでお菓子を頬張りながら明里の話、流行っている遊びの話、のんびりいろいろな話をした。

花街に生活拠点を置いている志津には新鮮な話ばかりで楽しかった。

今度遊ぶ約束もした。いろいろ教えてくれると言う。

「・・・・あんた、ちゃんと口利けたんやなぁ」

「な、なんや?」

「別にぃ。あ、そろそろ戻らんとっ。またいっぱい話してな」

「うん、今度は何か持ってくる」

「甘いもんがええなー」

いちいち真面目に頷く正一がおもしろい。

「ほな」

「うん」

手を振り合って別れた。

 

 

 

「何や、お志津。ええ事でもあったん?」

廊下を足早に歩いていた時、ふいに女将に声をかけられた。

「な〜んもあらしまへん♪」

首を傾げる女将を後に、軽い足取りで部屋へと行く。

「おしづー」

「はぁい」

袖からカサリとお菓子の包み紙が落ちた。

「ぁ・・・・・・・」

紙を拾い上げ、正一とのやりとりを思い出して

何となく口許が緩むのを感じながら、足早に廊下を歩いた。

 

 

お志津ちゃんと正一くん
年も近いだろうし、これから仲良くなってくれると良いなぁとか・・・・。
お志津ちゃんが恋も知らないまま職業として花街で生活していくのだけは
ちょっと・・・ね、哀しいなぁとか。
幼馴染みの可愛い関係いいですね^^
空子は幼馴染みとは兄弟のような関係なので想像できないのですけどね^^;
袖から落ちた包み紙。空子は小さいとき浴衣を着た時とか、
袖に何かをよくつっこんでいたみたいで、歩くと落としてたのを思い出して使ってみました。
行儀悪いですね^^;

2004.06.19 空子

 

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