手
昼飯を終えてセイは何をするでもなく縁側の柱にもたれていた。
朝の稽古で、手のまめをつぶしたらしくヒリヒリしている。
両の手のひらを見る。お世辞にも女性らしいとはいえない手。
明里の手を思い出してみる。
柔らかくて温かくて女性らしい手。
セイはためいきをついた。
「なにボケッとしてんだ?」
振り返ると永倉が立っていた。
「おなかいっぱいで、気持ち良くてつい」
セイはとっさに両手を後ろ手に隠した。
隣に永倉が座り込む。
「見せてみろ」
「え?」
「稽古でやったんだろ?」
ぐいっと手をつかまれた。
「お〜、がんばってんな。神谷」
言いながら何か薬を塗り込んだ。
「い〜っっ」
しみて思わず手を引いた。
「関心関心♪」
がっしりつかまれて更に薬を塗られた。
自分に薬を塗ってくれている永倉の手。
大きくて、器用そう。
「永倉先生、手おっきいですね」
「ああ?神谷もそのうちだろ。左之なんかもっとでかいぜ」
原田の手。
よく自分の背中をバシバシ叩いてくる大きな手。
力強さに勇気付けられる。
自分の手は、ヒトに何をしてあげられるのだろう・・・?
「なんだあ?ちびなのを悩んでるのか?」
「ち、違いますよ〜」
ふーんと永倉が辺りを見回した。
「おっ、総司ーっ、ちょっとこーい」
廊下を歩く沖田を呼び止めた。
「なんですか〜?わっっ」
永倉が沖田の着物の合わせを引っ張って体勢を低くさせた。
同時にセイの手をグイッと引っ張った。
ピトッ
沖田の頬にセイの手のひらがあてられた。
「なっ、なっ、なにをぉぉぉ??」
セイは離れようともがくが永倉が離してくれない。
しばらくそうしていると、
「神谷さんの手、冷たくて気持ちいいですねぇ」
ぼんやりと沖田が言った。
「え?」
「なんだか落ち着きます」
もう一方の手を永倉が自分の頬に持っていった。
「おー、本当だ」
永倉も言う。
「はい〜?」
自分が考えていた手とは違うけれど、
『なんだか落ち着きます』
沖田の言葉に、
とりあえずは良しとしようかなと思うセイだった。
私の手は冷たいです。
夏にはよくさわられます。
寝起きは体温高いんですけどね。
2003.07.12 空子
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