小さな幸せ

 

おつかいから屯所へと戻ったのは夕刻だった。

「神谷。遅かったな。もう夕餉だぜ」

「あ、はーい」

同じ一番隊の山口に呼ばれてそのまま並んで大広間へと向かった。

 

くしゅん

 

汗がひいて体が冷えたのか

セイは小さくくしゃみをした。

「誰かが噂してんじゃねぇの?」

からからと笑い声。

「あ・・・」

明里が山南のことを語ってくれのを思い出した。

 

「たとえば、紐がほどけたり

たとえば、眉を掻いたり

たとえば、くしゃみしたり

そういったことが、恋人と会える前兆ていうんやて。

そんな日は、山南はんに会えるかも思て楽しいんよ」

幸せそうに微笑んだ明里さん。

 

(ちょっとは良いこと起きるかなぁ)

「神谷っ、危ないっ!!」

「え?」

突然の浮遊感。

「あぶっないなぁ、も〜」

背後に沖田の声。

自分の腰に回された沖田の腕。

上の空で歩いていたので、廊下の曲がり角に気づかなくて

庭に落ちそうになったのを通りがかった沖田が助けてくれたらしい。

「お、おき、おきっ。きゃぁ」

「あばれないでくださいっ、かみやさ〜ん。わっ」

突然の出来事に慌てて暴れたセイを支えきれずに

一緒に庭へと落ちてしまった。

「あんまりですよー。神谷さん」

沖田は恨めしそうにセイを見た。

「も、もうしわけございませんっ」

頭を下げる。

(だって、突然だったんだもんっ)

真っ赤になった。

「あははー、神谷さん、葉っぱまみれ♪」

「沖田先生こそ」

頭にからんだ葉をつまみとる。

顔を見合わせて笑った。

「ほら、大丈夫ですか?」

先にあがった沖田が手を差し出してくれる。

「すみません〜」

引っ張り上げてもらう。

温かい手。

先ほど感じた腕の暖かさも、まだ覚えてる。

(嬉しいかも)

セイは小さく微笑んだ。

 

身に起こる、些細なことから感じられる

小さな幸せ

 

昔の人は、些細なことを
恋人と会えるシグナルとしていたそうです。
純粋で、日本っていいなと思いました。

2003.07.23  空子

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送