動かすチカラ

 

年明けにかけて屯所内では酒宴が開かれていた。

巡察に出た者、非番で外に出た者もいるが屯所で年を越す隊士も少なくはなく

羽目を外しすぎて寝込む者、原田を初め組長達に飲まされてつぶれてしまった者・・・。

そんな隊士の世話でセイは大忙しだった。

「あ、鐘の音ですね」

空いたお膳をあらかた片づけて、セイは温かいお茶を用意して沖田に差し出した。

「本当ですねぇ。今何回目ですか?」

沖田はセイから湯呑みを受け取ると、隣の席に座るよう促した。

「この状況で聞こえると思いますか?」

セイは周りを見渡して沖田に視線を戻した。

「あはは。そうですよね。ごくろうさまです」

沖田は取り置いておいた料理を勧めるとぼんやりと外を眺めた。

「人の煩悩百と八つ・・・」

「はい?」

ポソリと呟いた沖田の言葉が聞き取れず、料理を頬張りながらセイは空を見上げる沖田を見た。

「沖田先生?」

室内の騒がしい雰囲気とは裏腹な様子が気になってならない。

「ちょっと、風にあたってきますね」

「あ、・・・・はい」

何となく近寄りがたくて、席を立つ沖田を静かに見送った。

 

 

「・・・神谷さん」

どれくらいそうしていたのだろうか、ふいに沖田がセイを呼んだ。

「はい」

「除夜の鐘って、煩悩をぬぐい去ってくれるんですよね?」

「・・・・どうしたんですか?沖田先生」

熱でもあるのかなと不思議に思い、セイは沖田の額に手の平をあてた。

どうやら熱はないようで・・・・。

(何かあったのかな・・・?)

「今年一年を振り返ってみたんですよー」

額に当てられたセイの手をとると一つ溜め息をついた。

「・・・・・・一年を・・・?」

セイは沖田の隣りに腰を下ろすと、雲間から覗いた月を見上げた。

 

今年一年、良くも悪くも自分の心の中心に沖田がいたように思える。

気持ちがどんどん大きくなるばかりで、でもそれを許したくない自分がいて・・・・・。

 

(これも煩悩っていうのかな・・・)

 

都に響き渡る除夜の鐘の音を聞きながら思った。

この音が108回鳴り終えて新しい年を迎える頃、自分の中の沖田に対するこの気持ちを洗い流すことはできるのだろうか・・・。

最後まで隣に立つことを望むのならば、それは至極重要なことで・・・。

思うとチクリと胸が痛んだ。

 

「・・・でですね、神谷さん」

突然覗き込んできた沖田に我に返り、セイは顔を上げた。

「え?」

「だからですね、この一年ですね、私は何をするにも頭からあのことが離れなかったなと・・・」

眉根を寄せてセイに詰め寄る沖田の迫力に、セイは思わず身を引いた。

「?」

「葛きりにお饅頭、おせんべいにお団子に・・・。ほうら、惑わす物が多すぎて」

「はぃ?」

「この鐘がですね、そういう食の煩悩から開放してくれるかなと。でも、それはそれで寂しいじゃないですかぁ」

「・・・そんなこと考えてたんですか?」

呆れて物も言えず、セイはわざとらしく一つ大きく溜め息をついた。

「そんなことじゃないですよぉ。神谷さんと甘味巡りするのは私の楽しみの一つなんですから〜」

「え?私?」

突然出た自分の名前にセイが身を乗り出した。

「えぇ。だって付き合ってくれるの神谷さんしかいませんし・・・」

はぁ〜っ

大きく肩を落とし溜め息をつくと、セイは沖田に向き直った。

「いいんじゃないですか?用は本人の心構えだと思うんです。煩悩と言われようと

呆れられようと、馬鹿にされようと、沖田先生ご本人が大切だと思うことなら貫けば良いじゃないですか」

無意識に言葉が荒くなる。

(・・・あれ?)

自分の発した言葉に思考が止まる。

「・・・・神谷さん、私のことそんな風に思っているんですね」

沖田が泣くフリをした。

「・・・でも、そうですよね。神谷さん、あなたもそういうモノあるんですか?」

 

わかっていても、止められないこと。

それは、沖田に対するこの気持ち。

矛盾だらけな自分の気持ち。

 

「・・・・・・・私は・・・」

セイが顔を上げたとき、屯所の外がにわかに騒がしくなった。

その様子で年が明けた事を知る。

多少落ち着いていたはずの屯所内もまた騒がしくなる。

 

「神谷さん?」

呼ばれて我に返ると目の前には興味津々な沖田の表情。

「えっと・・・・秘密、です」

「え〜、私だけ知られてるのって何だかずるいじゃないですか〜」

「教えません」

フンッとそっぽを向いてセイは小さく笑う。

(心に秘めるくらいは、許されるよね?)

何だか少し気持ちが軽くなった。

「神谷さん」

「はい?」

「今年も、よろしくおねがいします」

「こ、こちらこそ、よろしくおねがいします」

深々と頭を下げられて、セイも慌てて頭を下げた。

「共に、つつがなく来年を迎えられるよう、がんばりましょうね」

「・・・・・はい」

「神谷流の稽古もがんばりましょうね」

耳元で小声で耳打ちされる。

「・・・はい」

くすぐったくて目を閉じた。

「甘味巡りも付き合ってくださいね」

「・・・はい」

隣に立つことを許されるという言葉。

たとえ想いが叶うことはなかったとしても、この言葉だけで充分。

それは、とても心強く自分を動かす糧になる。

 


お年賀にと作成したSSでした。
感想も頂けたりして、とっても嬉しかったです。
今年もいろんな風光るの人物を描いていきたいです。
まだまだ風光る中心で行きますデス☆☆
よろしくお願いいたしますー^^

2005.01.10 空子
(2005.01.31 改稿)

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