童歌



疲れていればいるほどなのか、なぜか眠れない夜がある。

 

 

セイは、隊士部屋を抜け出して

部屋から少し離れた階段に腰を掛けた。

階段の端に体を寄せて、ぼんやりと庭を見た。

(静か・・・・)

初夏のこの時期、昼間ほどには暑くはなく

過ごすにはちょうど良いくらいだ。

昼間はあんなににぎやかなこの庭も、

夜になってしまえば虫の声が聞こえるだけの寂しい闇だった。

眠れそうにないので、しばらくぼんやりとしていると、

ふいに母そして兄が歌ってくれた童歌を思い出した。

(眠れないときに、よく歌ってくれたっけ・・・)

うろ覚えの歌。

口ずさんでみる。

(兄上、同じとこでいつも間違えてたんだよねー)

思い出して少し笑ってしまった。

もう一度・・・・

ぼんやりしたまま、始めから口ずさんでいると、

声が重なった。

「斉藤せんせ・・・?」

「こんな時間に何をしているんだ?」

逆に斉藤が訪ねてきた。

「何となく眠れなくて」

そうか、と斉藤が隣に腰掛けた。

「斉藤先生もあの歌ご存じなんですか?」

「ああ、姉たちが聞かせてくれたのを覚えている」

セイは目を閉じた。

江戸にいた頃は母上が

母上が他界してからは兄が

眠れない夜に歌ってくれた。

「なつかしいですよねぇ」

口ずさむ

斉藤も合わせて口ずさんでくれた。

「あれ?」

「なんだ?」

「兄上と同じ所間違えてます」

セイは吹き出した。

同じトーンの声で、同じところを間違えるなんて

笑って、少しだけ涙が出てきた。

斉藤が見ぬふりをして口ずさむ。

懐かしい童歌

心地よい低めの声

「あにうえ・・・」

 

 

「神谷?」

隣を見ると、ウトウトしているらしく前後に揺れている。

おもしろい光景だったけれど、

そのままでは前のめりに倒れそうだったので、

とりあえず肩にもたれかけさせた。

もう一度口ずさむ。

斉藤の耳に、穏やかなセイの息づかいが届いていた。

 

 

斉藤先生が歌うたわないと思うけど・・・。

2003.07.15 空子

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送