宵闇の語りべ
「・・・ってな話があったわけだよ」 隊長の沖田が宴会の席に招かれて留守なことを良いことに、 『秋の夜長に』と疲れを知らない若い隊士中心で少しでも娯楽をと怪談話を始めたのだった。 セイは別段怖がりというわけでもないらしいと自己発見をして、 周りの状況を客観視できるだけの余裕があった。
しばらくはヒソヒソ声がして皆が起きている気配もしていたけれど、 時間が立つとそれは穏やかな寝息に変わり静かになった。 話を聞いている間は平気だった筈なのに、眠れなくて頭が冴えてくると、 隣に目を向けるけれど、いつもいるはずの沖田の姿はなくだんだんと心細くなってきてしまった。 落ち着こうと月を見上げながらゆっくり歩みを進めた。 (戻ろっ) 急に気になって余計に恐くなってきてしまった。 雲の狭間に見え隠れする月のその不安定さに余計に心細さを感じる。
(うそっっ!!) 血の気が引くのを感じてセイは勢いよく駆けだした。
隊士達が眠る部屋へと戻り脇目もふらずに自分の布団へと転がり込む。
(どうしよぅっ、どうしよ〜っ!)
布団を頭からスッポリと被って着物の合わせを握りしめた。 密閉された空間だからか鼓動が早くいつもより大きく感じる。
ポン
(・・・・?)
布団を叩かれて思わずビクリと反応してしまった。 「・・・・・・」 体中から嫌な汗が流れるのを感じる。 (な、なに?) 「・・・さん?」 「?」 小声で話しかけてくる何だか聞き慣れた声。 「神谷さん、どうされたんですか?」 心配そうな声音に布団を少しめくり視線を上げると いつの間にか戻っていたらしい沖田が暗闇で表情は見えないけれど こちらの方を見ているのが気配でわかった。 「沖田先生・・・?」 「慌てた様子でしたけど、何かあったんですか?」 「・・・じつは、さっき・・」 声を聞いたら少し落ち着いてきたので寝る前の怪談話を少し話した。 「夢を見たと思えば怖くないですよ」 ポンポンと布団をあやすように叩かれた。 (もしかして、沖田先生って『ソウイウノ』見える人??) 落ち着いた筈の鼓動がまた跳ねた。 血の気が引くのを感じる。 混乱に頭を抱えた時、ズルズルと何かを引きずる音がしてセイは体を起こした。 「・・・・?」 見ると沖田が布団を寄せていた。 「これで、怖くないですよー」 近くに人の気配があるというのは幾分か気持ちが落ち着くものだ。 「・・・・はい」 横になると、クシャリと頭を一撫でされた。 それだけで落ち着いてしまい、セイは眠りについた。
「神谷早いな。昨日はちゃんと眠れたか?」 翌朝、身なりを整えて朝の稽古場へ向かうと 一緒に話を聞いていた隊士が「俺は眠った気がしない」と大欠伸をしていた。 「私もです。そういうの、苦手みたいで・・・・」 二人で顔を合わせて苦笑した。 「早いなお前達、・・・もしかして、眠れなかったのか?」 おかしそうに昨日の話し手の隊士が笑った。 「お前のせいで俺は夢見てしまったぞ」 昨晩の話手が稽古場に入るなり捕まえると相手の肩を揺さぶった。 中途半端な終わり方だったので余計に気になって夢に出てきたのだという。 「怖がってくれたなら良かったよ」 話し手は悪びれることもなく言った。 「続きが気になるなら沖田先生にでも聞くんだな」 「「え?何で沖田先生??」」 重なる声。詰め寄る二人に話手の隊士は一瞬たじろいだ。 「あの後さ、どうしても気になるっていう奴らに起こされて部屋を出て話したんだよ」 「そうだったのか??」 どうやらセイが部屋を出た後の話らしい。 そこを戻ってきた沖田に見つかって事情を話したところ、 面白そうだからと沖田も話の輪に加わったのだという。 (ん?) セイはふいに頭に昨日の情景が浮かんだ。 『もし・・・』 あの声、あの時は慌て過ぎて気づかなかったが思い返してみれば (もしかして・・・っ)
「おや、みなさん早いですねぇ」 のんきな沖田の登場に、セイは血が上るのを感じた。 「どうした?神谷」 握り拳を作りわなわなと震えだしたセイに隊士が声をかける。 「・・・沖田先生、昨晩はよくも驚かせてくれましたねぇっ」 「え?何で私ってわかった・・・」 「やっぱり〜??」 「あ・・・」 かまかけられたことに気づき慌てて口を両手で塞ぐけれど後の祭り。 セイが竹刀を殺気満々で構えた。 「だって、ほら、ね?神谷さんって『そういう類』も吹き飛ばしそうですし、 あんなに驚くなんて思ってなかったんですよー。 それに、悪いなって思って慰めてあげたじゃないですか〜」 確かにあやす手も、かけられた言葉も優しかった。 (・・・・でもっ!) 流されてはいけない。 もしかしたら部屋で声をかけてくれた時、表情は見えなかったけれど 慌てる自分を見て笑っていたのかも知れないのだ。 (安心してしまった自分が馬鹿ばかみたいじゃないっ!) 後ろへ一歩、二歩と下がりながら一気に捲し立てる沖田が腹立たしくて 殺気をそのままに詰め寄った。 「うわぁ、ごめんなさい〜っ」 「逃げるな〜!!」 逃げる沖田を鬼の形相でセイが追いかける。 「神谷、物の怪より怖いぜ・・・」 しばらく隊士達の語りぐさになったとかならないとか・・・?
2004.12.26 空子 |
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||