ゆびきり

 

「・・・っ!」

みながぐっすりと休んでいる中、セイはすごい勢いで跳ね起きた。

気持ち悪い汗をかいている。

外に目を向けると、まだ日が上る気配はない。

夜風にでもあたって汗を引かせようとセイはこっそりと部屋を抜け出した。

庭へと続く階段に腰掛けると、セイは深呼吸を数回繰り返した。

 

(なんで、あんな夢・・・)

 

眼下に横たわる沖田。

誰かに斬られたのか、辺りに散る真っ赤な血。

呆然と立ち尽くす自分・・・。

 

まだ鼓動が早い。

苦しくて、セイは胸元を強く握り締めた。

 

 

「神谷さん?どうなさったんです?」

突然の声に振り返ると、

沖田が眠そうな目をこすりこすり歩いてきて隣に腰掛けた。

「な、なんでもないです」

沖田の顔を何となく見ることができなくてうつむいた。

「・・・ご家族の夢ですか?」

「・・・違います」

そのまま口を閉ざしたセイに何もしてやることができず、しばらく沈黙。

お互い闇を見つめていた。

 

 

「・・・?」

頭に手を置かれたかと思うと、くしゃりとなでられた。

「いえ、何となく・・」

沖田を見ると居心地悪そうに頭を掻いていた。

 

 

(・・・あぁ、生きてる)

 

 

安心したら、ホロリと一筋涙がこぼれた。

「どっ、どうしたんですかーっ」

セイの涙に気付いて沖田は大慌て。

「スミマセンッ」

声を聞いたらますます涙が止まらなくなってしまい、

セイは膝に顔をうめて落ち着こうと努力した。

沖田は何を言うでもなく、場を去るでもなくただ隣にいてくれる。

それが嬉しかった。

 

 

どれくらいそいしていただろうか。

「センセ・・・」

ひとしきり泣いて、落ち着いてから沖田を呼んだ。

「はい?」

「死なないでくださいね」

「?」

沖田が首を傾げた。

「私より先に逝かないでくださいね」

「それはできない約束ですよ神谷さん」

「そんなことっ」

言わないでください。

セイはそう続けようと顔をあげた。

「・・・・」

目に入ったのは、困ったような沖田の顔。

セイはまた俯いた。

いつ、何が起こるかわからないこの世の中。

明日の今頃には自分は死んでいるかもしれない。

仲の良かった隊士の死もあった。

自分と間違えられて斬られた隊士もいた。

いつ自分がそうなるかわからないから、

己の誠を貫いた上での天命なのだから

その時が来ても笑って逝けるように今を生きるのだと、

それが武士なのだと教えられた。

 

 

(わかってはいるけれど・・)

 

 

夢に見ただけでもつらかった。

できるなら、夢のようなことは起きて欲しくない。

「神谷さん」

呼ばれて顔を上げると沖田が少し赤い顔をして

普段の彼からは想像できない

ちょっとぶっきらぼうな態度で小指を差し出していた。

「・・・え?」

「ゆびきり、です」

沖田が小さくつぶやいた。

「沖田せんせ・・・」

「死に急ぐことはありませんしね」

 

 

生きましょう

 

 

沖田の目に強い意志を感じて、セイも小指を差し出した。

「はい」

「約束ですからね」

「はいっ」

ぶんぶんと結んだ小指を振って、顔を見合わせてクスリと笑いあった。

 

 

照れ隠しにぶんぶんと指を振る二人がふいに頭に浮かんでこのお話ができました。
今度は、もっと可愛らしい内容でゆびきりしてもらいたいです。

2003.09.20 空子 

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