夢の逢い

 

中村はフワフワした感覚を覚えながら廊下を歩いていた。

その理由は十番隊の仲間たちとの昨日の深酒が原因と自覚している。

翌朝が非番だったので羽目を外してしまったのだ。


「具合悪いのか?」


背後から心配そうな細い声。

「いえ、なんでも・・・」

応えようと振り返った時だった。

「か、かみやっ!?」

「な、なんだよ?」

その声の主は、巡察からの帰りなのか少し肌寒いこの時間帯に、うっすらと汗をかいているようだ。

大丈夫だからとその場を去ろうとした時だった。

「中村五郎?」

クラリと立ち暗み。

「おい、なかむら?」

自分の名を呼ぶ神谷の声が遠くに感じるのを不思議に思いながら、中村は意識を手放した。


 


「・・・あれ?」

目を覚ますと、そこは何度か隊士の見舞いに訪れたことがある病人部屋で、

廊下を歩いていたはずの自分がどうしてここにいるのかわからない。

暗い部屋の中、回りには人の気配はなかった。

「・・・・」

体を横たえているのにまだふわふわした感覚。

人の気配で何度か起きて、しばらくしたらまたそのままとろとろと眠りについてを繰り返していたのを覚えていた。

(どれくらい寝ちまったんだろ・・・)

少し不安になって辺りを見回した。

雨戸が引かれている様子から、もしかしたら丸一日眠りこんでいたのかもしれない。

しばらくすると、ぼんやりと部屋に光が入り込んでいるのに気がついた。

その光の先を見やるとその光は像を描いているようで・・・。


(かみや?)


その像は何やら人と会話している様子で辺りを見渡している。

(夢・・・?)

手を延ばすと、布団から体を起こしただけの自分のすぐ目の前に神谷の顔。

その表情が気になって手を延ばす。

触れているのにその感触はなくただ空を撫でるのみ。

(夢、見てるのかな)

その像はまるで逆立ちをしているようで、ありえない状況なので夢と覚える。

以前、いつの間にか本気で好きになってしまった神谷のことを伊東参謀に相談したことがある。

酒が入っていたせいで、いろいろうろ覚えなこともあるけれど、

その後、この気持ちは悩んでいたような邪な感情ではないのではと考えられるようになった。


(夢なら良いよな・・・)


手を伸ばし、額の辺りに口付ける。

実際に行動にでようものなら斬り殺されてしまうだろう。

(はは、都合良いよな)

小さく溜め息。

(いいや、夢でも)

一つ溜め息をついて改めてその像を見つめた。

しばらく眺めていたけれど、ザッザッと土を踏み締める足音とともに消えてしまった。

(・・・・・夢ですら適わないのかよ〜)

自分の想いを否定された気がして視線が下がる。



ガラガラガラ



遠慮がちに開かれた雨戸。

下駄を脱ぎ捨てるカラコロという音。


「大丈夫なのか?」


眩しくて閉じていた目を開くと、目の前には先程夢に見た本人で・・・。

ひとつ頬を抓る。・・・・・イタイ。

(・・・・夢じゃねぇの?)

その姿を見上げて惚けていると、神谷が事務的に額の汗を拭ってくれる。

「一日眠りこんでたんだぜ」

病人の看病は手の空いている者の持ち回りになっているのを知っているから淡い期待も抱けない。

けれど、単純なもので沈んだ気持ちが少し浮上した。

「戻らないと・・・」

確か今日は昼から巡察だ。

「・・・・?」

起き上がろうとするけれど力が入らない。

「熱あるみたいだし、ゆっくり休んでろとのお達しだよ」

有無を言わせずといった様子で制して神谷が布団を掛けた。

「・・・しばらく休み取っていなかったんだってな。原田先生や伊東参謀が充分に休みを取るようにってさ」

「そか・・・」

考える時間を少しでも減らそうと、休みも取らずに隊務をこなしていた。

「剣術の腕も上がったって褒めてたよ。今度、手合わせしてくれないか?」

静かな神谷の声。もっと聞いていたいけれど瞼が重い。

そんな中村の様子に気づいたのか神谷が一言。

「・・・・・粥でも用意してくるから、もう一眠りしてろよ」

立ち上がりかける気配に気づいて思わず手を伸ばし、袴の裾を掴んだ。

「・・・・・おい」

「ごめっ、少しだけで良いから・・・・・」

側にいてくれよ。

ふうっと呆れたような溜め息。

(今だけでいいから・・・・)

「・・・・わかったよ。行かないから。・・・・早く治せよ」

元気がない中村五郎って変だよ。

言いながら傍らに座り込む神谷の気配。

神谷の言葉に小さく笑うと、握りこんだ布の感触に安心してそのまま眠りについたのだった。

 

 

中村五郎くん。
17巻を読んで応援したくなってしまいましたv
中村君といるときのセイちゃんは、私の中では言葉遣いも態度も、とっても男らしい。
中村君がセイちゃんを『男』と認識したから余計にそうなるのかもしれないです。
(セイちゃん(女)と五郎君(男)の立場が逆に見える^^;)
総ちゃんや斎藤さん達とは違う関係の二人。
なんか良いなぁと思ったりします。

ちょっと調べてわかったこと。
中村君はセイちゃんとは離れることになりますよね。
詳しくは知らないのですが・・・・。哀しすぎる・・・(゜дÅ)ホロリ
でも、できれば、できればっ、最後の最後にセイちゃんを支えてもらいたい・・・・><

『逆さに写った像』は、私が最近興味を持った針穴写真の原理です^^
葛飾北斎の代表作『富獄百景』の中に「ふし穴の不二」という作品があるようで、その作品を参考にしました。
五郎くんとセイちゃんのお話好きじゃない方すみません・・・m(__)m

2005.02.04 空子

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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