自覚
「か〜み〜やっv」
「なんですか?原田さん」
「つれねぇなぁ」
原田は泣くふりをした。
下っ端のセイは忙しい。
ヒマを見つけては、色々な雑用なんかも引き受けている。
今もおつかいからの帰りで、沖田に報告に行くところなのだ。
忙しく屯所内を駆け回っているところに呑気に声を掛けられたら誰でも同じ反応をするだろう。
「じゃあ、いきますね」
セイは足早に原田の元を離れた。
廊下の角を曲がった所でセイは壁に体を預けて座り込んだ。
(いきなり来ないで欲しい)
あの文武館でのことから原田は何かとセイを構いたがる。
本気なんだか冗談なのだかよくわからないけれど、
なんだか以前のようには原田を見れずにいた。
なにより、まだ自分が女であることを彼は知らないのだ。
妓遊びは派手だし、慣れてるだろうに
構ってくる割りにはセイが女だということにまったく気付かない原田がなんだか恨めしい。
だんだん腹がたってきた。
「おや、おかえりなさい。神谷さん」
眉間に皺を寄せて座り込んだままのセイに、沖田も隣に座り込んだ。
「また何かあったんですか?」
沖田が庭を見ながら言う。
「なんでもないんです」
セイはムスッとしながら応えた。
「原田さんのことでしょう?」
「なっ」セイは口をパクパクして真っ赤になった。
例の事件は皆に黙殺されていたのだった。
沖田にもしっかり見られていたのだろう。
「・・・わからないんです」
原田のことは、なんだかんだと言っても尊敬しているし、憧れる面もある。
でもそれは沖田を始め他の隊士にも言える。
沖田は中でも別格で、矢面に立ち死んでも構わないとすら思える。
では、原田は・・?
「女ったらしだし、大食いだし、部屋はすぐにちらかすし・・」
『神谷♪』
浮かんだのは豪快に笑う原田。
前向きで、不可能を可能に変えてくれるような、強い眼差し。
「・・・・」
「あ、そーでした。」
しばらくの沈黙の後、沖田が先に口を開いた。
「明里さんが、おいしい和菓子が手に入ったから、
遊びにきてっておっしゃってましたよ」
「ホントですか?」
途端にセイが笑顔になる。
沖田は小さく微笑んだ。
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